就職転職・昇進昇格試験コラム11

就職試験・昇進昇格試験論文や作文の参考になるコラムです。

誰に読ませるのか

 「自分のことは自分が一番よく知っている。」これが、必ずしもそうではないように、「自分の会社のことはよく知っている。」これもまた、時として当てはまらないことがあります。

  添削者として昇進試験の答案を拝見する際の評価の基準は、受験小論文でのそれとほとんど変わりはありません(例えば、論理構成の破綻・事実誤認・論理矛盾の有無など)。しかし、中には、こうした論文の基本の「き」をきちっと押さえていながらも、合格答案にはならないものが、稀にですが存在するのです。

  こういう答案を書く方からは、「今まで何度挑戦しても昇進できなくて…」というご相談を頂くこともあります。その上で文章を拝見しますと、確かに「論文」としては文句なしに立派なできばえで、なぜこれが通らないのか、首をひねりたくなるようなものなのです。そのとき、その背景にあるものを考え、私が思い至ったのは、「書く前から試験は既に始まっていたのではないか」ということでした。

  もちろん、これはコネによる不正な(と言うべきでしょう)試験のことを指すのではありません。そうではなく、書き手が「読み手は誰か」とのことをほとんど考えず、ただ優れた「論文」を書こうと指向したところに、失敗の原因があるのではないかと思ったのです。

  一例を挙げますと、昇進試験で「社内改革の推進について述べよ」と求められた場合、本当に改革についてまじめに論じていいのか、ということです。もちろん、ほとんどの場合はまじめに論じるべきですし、その優劣はそのまま合否の結果につながるでしょう。しかしながら、会社=経営陣の頭の中に改革の「か」の字もなく、本心では忌み嫌っていながら、こうしたテーマで昇進試験を行うことは、別に珍しいことではありません。

  考えてみればこれは当たり前かもしれません。これまでの仕組みの上で勝者となり、取締役に上った人々にとっては、言うまでもなくこれまで通りの仕組みこそ、心地よいものに他ならないからです。しかし、たとえ経営陣が進取の気性に富み、「このままではいけない」と考えているにせよ、今度は人事部または考査担当が同じように考えているかどうかは、沙汰の限りではありません。

  これは、大きな会社になればなるほど見えにくくなることですし、老舗であればあるほどこうなる確率は高そうです。論より証拠、こうした企業群が今日、往々にして経営不振にあえぐ例が多いのは、その保守性ゆえと言えるでしょう。もしご自身の会社をよく見回してみて、このような雰囲気が強固であるならば、まじめに改革を論じるのはかなりのリスクを負うおそれがあるのです。

  ですから、論文を書く前に、皆さんには十分に気をつけていただきたいのです、自分の会社はどんなところかということを。それによって、書くべき方針は180度異なり、「合格答案」なるものも、まるで別の文章となるはずです。

  これは何も、みなさんを扇動しようとたくらむものではありません。あたら優れた人材が、不遇をかこつ例を見てきたがゆえなのです。書く前にもう、試験は始まっています。どうか慎重に見極め、答えを出してください。「自分の会社は、どんなところか? そこの誰に読ませるのか?」と。

・講座開始のご案内 (2010/1/15)  ≫詳細