早大添削コメント例[社会科学部推薦]15年

このコメントは、WIE小論文navi添削講座「早稲田大学推薦AO入試小論文」で実際に行われたものです。


●早大社会科学部自己推薦の小論文を担当いたします西田と申します。よろしくお願い申し上げます。
 過去問に挑戦された手応えは、いかがでしたか。早大社会科学部の自己推薦入試は、時事問題に対する解答者の見解をストレートに問うというものです。これは教材としてお送りしたこの3年分だけではなく、それ以前から見られる出題傾向です。
 ただ、時事問題といっても特殊なものではありません。高等学校の授業、特に公民科で取り上げるものが多いと思います。教科書には載っていなくても、資料集などの補助教材まで範囲を広げますと、ほぼ間違いなく触れているはずです。またそうではなくても、マスコミで盛んに取り上げられているものがほとんどです。
 したがって、時事問題に関する知識を増やすための学習といった、特殊な対策は不要です。また時事問題に対する考え方も、高校の公民科あるいは一部の家庭科などを学習するもので十分対応可能です。したがって、合否を分けるのはこうした基礎的な事実や思考手続きの知識があるかどうかではありません。
 これらの知識を身につけていることは前提であって、それらを組み立てて読者(採点者)に同意・納得してもらえる論理的な文章が書けるかが、最大のポイントになります。小論文入試の出題としては古典的とも言えますが、名門早稲田大学らしい良問だと言えます。

 さて、テキストの掲載順を変更して、2015年出題から解答して頂きましたが、実はこの年度の問題は、やや特殊です。14年・16年の設問文をよく読んで頂くと、本年との重大な相違に気づくでしょう。今回の設問文は、「理由」と「具体例」を「挙げ」ることを要求しています。14年・16年の出題と違って、「考え」は要求していないのです。13年以前の出題でも「考え」を要求していましたので、本年の特殊だと申せます。
 もちろん、解答者の考える「理由」であり、同じく適合していると考える「具体例」ですから、解答者の思考が不要なわけではありません。しかし、あくまでも事実関係の分析が要求されているのであって、解決策の提起などに関して設問は全く触れていません。設問文をよく吟味してその要求を正確に把握しませんと、大失敗をしかねないのです。

 出題に関する分析と解説はこのぐらいにして、ここからはお送りいただいた答案を拝見して参りましょう。誤字脱字や主語述語の不適応といった問題は少なく、解答者の国語力は十分だと申せます。また、設問の要求は一応正しく理解しているようです。しかし、ただ、残念ながらいくつか基本的な問題点があるために、WIEの基準では「合格圏」とは申せません。
 その最大のものは、解答者の主張・見解と、その論証のために用意した概念(論点)とが適切に関係付けられていません。このため、概念の関係=論旨に大きな混乱が生じているのです。よく「論旨の明解な文章」とか「説得力のある論文」を書くように、といわれますが、これは「使用されている概念の関係が明確である」ということに他なりません。逆に、これが不十分ですと、論旨の矛盾・混乱として、大きく減点されることになります。
 細かい国語表現なども指摘しましたが、以上の点が改善のポイントになります。

 答案に対するコメントは、添削本文の後にまとめてあります。abc……の記号は、答案のものと対応しています。なお、特にコメントのない修正は、単純な語句の誤りや、分量調整のためのものです。

(添削本文)


[解答は省略]


A:誤りとまで申せませんが、不十分な記述です。「シルバーデモクラシー」論では、高齢者(=シルバー世代)が多数派になり、若者が少数派になる、というのが立論の大前提です。ただ、若者が少数派になるのは、①少子高齢化によって全人口に対する若年人口の比率が減少する側面と、②同一年齢集団の中で積極的に政治参加をしようとする比率が高齢者は高く若者は低い、という側面です。①は個々人の政治意識と無関係な人口動態学的な問題であり、逆に②は、個々人の意識という社会(心理)学的な問題です。
 現在の答案ではこのうち②のみに注目していることになりますが、若者の政治意識の低さは、「シルバーデモクラシー」論の登場以前から存在します。1960年代末の全共闘運動に象徴されるスチュデント・パワーが衰退して以降、若者の政治離れが指摘されています。
 このように考えますと、①の視点に触れませんと、事実認識として不十分です。
B:Aよりも重要性は低いですが、「政治への参加」を「選挙」に限定するのは、不十分だと思います。署名活動や議会への請願行動、マスコミでの発言など、「政治への参加」には多様な形態があります。確かに「選挙」(権の行使)は、代議制民主義では最も重要かつ基本的な政治参加の形態ですが、少なくとも他の可能性があることが分かるように記述すべきです。
a:同じ内容の重複です。短い間隔で同じ内容が何度も出てくるのは、文の印象を損ないますし、「書くことがなくて埋め草に入れたんだな」という誤解を、読み手に与えかねません。簡潔を以て事とする論作文の原則から見て、必要のない記述は省くべきなのです。
C:Aの問題があっても致命的な減点になりませんでしたのは、この記述があるからです。ここでAで②とした視点が含まれています。ただし、Aと一緒に取り上げ、「シルバーデモクラシー」の概念規定(説明)を正確にするべきです。
b:強調のために、反語を含め疑問形を多用しますと、概念の関係が読みとり難くなります。また、基本的に分量も余計にかかりますね。ここなども解答者の見解をストレートに表現した方がよいと思います。
c:現在の記述でも減点にはなりませんが、ほぼ同じ概念の関係をより短く書くことが可能です。
 小論文を書き慣れないうちは、課題文の内容把握であれ、解答者の見解であれ、書くことが見つからない=分量不足の問題が深刻です。しかし、小論文を書く力が向上してきますと、今度は「書きたいことの過剰」に悩まされることになります。
 この対策は、基本的には構想のメモの段階で、盛り込むべき重要概念の優先順位を考えることです。しかし、文章の技術として「短く書く」能力もありますと、取り上げている概念が豊富で、かつその関係付けが精密な文章が可能になります。いわゆる深い考察を示すことになりますね。
D:Aの問題点は、Cの記述があるために大きな問題にはなりませんでしたが、ここは致命的な減点になります。最終的に合格圏とならなかったのは、この問題があるためです。
 ここで指摘されている問題は、当事者の年齢と直接関係付けられていません。説明すべきは、こうした現象がなぜ「高齢者」では少なく、「若者」に多いかでしょう。学校や企業などの所属組織に対する責任・発言権が低いため、こうした全体に対する興味関心がない。そのため結果、社会関係が身近な友人や家族に限定され、国家単位の問題関心がない、といった「若者」と「高齢者」の相違点を指摘すべきです。
 この論旨構成=概念の関係付けに失敗したために、解答者の主張・見解は論拠のない、単なる意見表明・感想発表に留まっているのです。
d:答案を拝見していますと、読点(、)が若干少ないようです。読点の使い方については、簡単なようでなかなか難しく、すぐに覚えられるようなものでありませんが、以下に簡単な用例を示しますので、参考にしていただければ幸いです。
①助詞の前には原則として入れない。
→新宿には、山手線、中央線、埼京線、が通っている。
②主部の直後に入れる。
→山本君は、畠山君、沢田君に次いで優秀な学生である。
  主 部
③述部を修飾する部分の、ブロックごとに入れる。ただし最後のブロックの後と、極度に短いブロックの後には入れない。
→むかしむかし、あるところに、おじいさんと、おばあさんが住んでいました。
   ブロック1  ブロック2  ブロック3  ブロック4  述 部
注意:例文は各ブロックが短すぎるので、本来ここまで読点を入れる必要はない。
④強調したい言葉の直後に入れる。
→大阪は、東京と並んで経済活動の中心となる都市である。(大阪を強調)
 →大阪は東京と並んで、経済活動の中心となる都市である。
(東京と大阪は拮抗していることを強調)
→大阪は東京と並んで経済活動の中心となる、都市である。(経済活動の中心であることを強調)
⑤文の論理が変わるところで入れる。
→田中さんと、山田さんの娘と、息子が同行した。
(同行したのは「田中さん」「山田さんの娘」「(私の)息子」)
E:A・Cの改善にもよりますが、若者の絶対数が少ないのであれば、高齢者と同程度の投票率であっても、投票数は少ないことになります。いわゆる票田として小さい、ということになりますね。
F:この部分は、対策の提案になっていますが、冒頭で述べましたように、設問の要求とは関係の薄い部分です。他の提案で字数が増えますので、そちらを優先すべきです。A~Eの改善をしてもなお字数に余裕があるようでしたら、それに応じてこの記述を活かしましょう。


 以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。


早稲田大学小論文対策室に戻る