早大添削コメント例[社会科学部推薦]16年

このコメントは、WIE小論文navi添削講座「早稲田大学推薦AO入試小論文」で実際に行われたものです。


●添削結果に基づいて再提出をされるより、教材の過去問にとりあえず挑戦することを優先しておいでですね。最新年度の過去問である、2016(平成28)年度入学者選抜試験に対する答案を拝見いたします。
 本年の出題傾向も、2014年・15年と同じです。与えられた論題は「選挙権年齢を18歳に引き下げること」ですね。ただし「日本の政治や社会に及ぼす影響」という、視点の指示があります。非常に大きな枠組みですから、解答の自由度は高いですが、解答者自身が選挙権を得た個人的な感想などを書いても、ほとんど評価されません。あくまでも、日本全体という視点でなければなりません。

 お送りいただいた答案は、あと一歩ではありますが、合格圏とは申せません。それは、概念の関係付け=論旨の構成に不適切な箇所があるためです。このため、答案全体を通じて論旨の一貫性がなくなっています。また、大学入学=高校卒業段階の知識として不十分な点もあります。このため、大枠としては設問の要求に応えるために必要な重要概念(論点)と、それに相応しい材料(事例など)は用意できているだけに、残念です。
 早速ですが、答案の該当箇所に即して、改善を考えて参りましょう。

 細かい国語表現なども指摘しましたが、以上の点が改善のポイントになります。

(添削本文)


[解答は省略]


A:他の添削でも同様の指摘をしましたが、1文があまり長いと、概念の関係=論旨が読み取りにくくなります。次のBと関連しますので、文を切りましょう。
B:ここは致命的な減点にはなりませんが、概念の関係付けがやや不適切です。そのため、事実関係と齟齬が生じています。具体的には、この部分の前後を、「同時」にという語で前後を関係付けておいでです。これは、時系列上同じ位置に生起した、というだけの関係を示します。しかし、「若者の選挙に占める数を増やすこと」は、「若年層の考えを政治に取り入れ」ることの原因というべきものでしょう。現在のままですと、この関係が正しく表現されていないことになります。
 一応、私の方で適切と思われる関係付けをしましたが、御自身のお考えに即して、より適切な表現になるよう、再検討してください。
C:民主主義、とりわけその多数決原理に関する理解が不十分です。確かに選挙権年齢引き下げによって、18歳・19歳年齢集団が選挙に参加しますので、選挙権保持者の中で「若者」が占める比重が高くなります。しかしそのことは、直ちに他の年齢集団に対して「若者」が意志決定上優位に立つことを意味しません。
 確かに、全体集団の中で、その一部をなすグループの数的比重が増大すれば、そのグループが全体の意志決定に及ぼす影響は強くなりますが、「中心」になれるとは限りません。まず、そのグループが全体の中で多数派であることが必要条件になります。さらにグループとして共通する利害関心を持ち、他の集団に対してグループとしてまとまった行動を取らなければ、「中心」にはなれないでしょう。
 この問題をあとで議論するために、Bの改善で「可能にする」という表現をしましたが、この点を含め以下の改善で再検討してください。
D:今回、合格圏を逸したのは、この部分で概念関係付け=論旨の破綻を生じているからです。
 「投票によって政治を変えることが可能」になったので、「社会に対する関心が強まる」ということで、「投票」が原因になって、「関心」が強まる、という関係を提示しています。
 しかし*では、「身近な存在であると認識」(≒「関心」)が、「若者の投票率が上がる」としています。ここでは、「日本の政治や社会」に対する「若者」の意識が投票行動を促す、という関係になっています。
 つまり投票という政治参加の手段が、若者の意識(関心・認識)をかえるのでしょうか。それともその逆の因果関係なのか、全く逆方向の関係が、関係付け=論旨固定されないままに並立しています。これは、致命的な論旨の破綻・矛盾です。
 確かに、意識と行動には相乗効果が生じることが少なくありませんので、意識が行動を促し、その見解がさらに意識を高める、といったことはしばしば見られます。しかし、現在の記述はそのような関係を示してはいません。
 これらの関係を再検討して、論旨の破綻・矛盾を解消してください。
E:Bで指摘したことと関係しますが、「多数派」となるかどうか、根拠なく断言しています。「多数派」になると判断するのであれば、何歳から何歳までを「若者」とすべきなのか、そしてその年齢集団が全人口に対してどの程度の比重なのか、などの論拠を示す必要があります。
 これが出来ないのでしたら、「比重が高まる」という程度の記述に留めるべきです。また、この前提に基づいた議論に変更する必要があります。
F:ここは、Bと関連しますが、そもそも「若者」が、1つの政治勢力としてまとまるような共通利害があるのか、ここまで解答者は明示していません。例えば、都市と農村部といった地域差や、男性と女性といった単位での政治的利害対立しかなければ、新たに投票権を得た18歳・19歳の人たちも、既存の政治グループに吸収されてしまうでしょう。都市部の「若者」は都市の利害に基づく投票行動をし、農村部の「若者」は同じく農村部のために投票するのであれば、「若者」という政治集団が存在しないことになります。
 そうしますと、まず「若者」が、意識しているかどうかは別として、共通の利害を持つ集団であることを示す必要があります。そのことと関係付けがない限り「シルバーデモクラシー」という概念を用いても、「若者」がこれと対抗する勢力になるかどうかは、不明のままです。
G:「早い段階から政治について深く学ばせる必要性」とありますが、「早い段階」は投票権年齢以前というだけであって、この投票権年齢が何歳であっても、直接「必要性」には関係しません。したがって、この「必要性」を認めて、政治意識を高める教育をするかどうかは、「選挙権年齢を18歳に引き下げること」の影響とは言えないでしょう。
 もし、この記述を残すのであれば、これまでの20歳では不要であった、あるいは不可能であったことが、「18歳」になることで新たに必要になった、あるいは可能になったことを明示しなければなりません。
 結局、「18歳」によって生じる質的な変化を示さなければ、現状の教育に問題があるだけであって、特に選挙年齢の引き下げによる影響とは言えないででしょう。
 あるいは、A~Fの改善で大幅に字数が増えるようなら、この問題は割愛して字数の調整をしてください。
H:他の添削でも同様の指摘をしたかも知れませんが、この部分はいわゆるまとめに当たりますね。まとめでは、①それまでに取り上げた最重要概念(論点)とその相互関係(論旨)を繰り返す(論旨の確認・強調)、②論証をせずに今後の展望、他分野への影響を示す、といった記述をします。現在は、この①に当たる記述です。従って、ここまでの改善によって論点や論旨が変更になれば、それに併せてこの部分も手を入れる必要が生じます。
 ここまでの改善で、大幅に内容が変われば、それに対応したまとめにしなければなりまません。
 さらに、この部分は、省略することも可能です。①であれば他の箇所と重複しますし、②であれば論文としての論証を欠く部分となります。いずれにせよ、字数に余裕がない時には全面的に割愛しても、全体の論旨に影響しない箇所なのです。


 以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。
 ここまでの添削を通じて言えますのは、設問の要求を把握するという点に大きな問題はありません。そしてそれに対応する解答者なりの論点を設定し、それに必要な材料を集める、というところも大枠では出来ています。
 問題は、それらを関係付けて議論を構成する段階にあります。ここで躓く原因はいくつかありますが、今回のように高校段階で身につけているべき知識が不確かな点です。例えば「多数派」といった基本的な概念が不正確に使われています。
 もっとも、これは知識そのものが不足しているのではないと思われます。議論を組み立てる段階での不注意が、主たる原因でしょう。これを克服するには、再提出の際に、慎重に論旨の構成=概念の関係付けを行うことです。
 試験まで時間がなくても、この概念の関係付けの練習だけは是非行ってください。


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