ビジネス文章講座の添削例

●詳しくは、テキストの解説を参照していただきたいのですが、今回の課題では、次のことに言及すべきです。

(1)ターニングポイント以前の解答者の業務の説明(業務の進め方、業務を進めるにあたり、注目していた視点や欠落していた視点、業務に臨む姿勢など)
(2)ターニングポイントとなった出来事の説明
(3)ターニングポイント以降の解答者の業務の説明(業務の進め方、業務を進めるにあたり、注目している視点や新たに加わった視点、業務に臨む姿勢など)

 (1)と(3)の違いが明確であることや、その原因として(2)が適切であることに説得力があれば、優れた答案だと評価されます。この条件を満たすような、「ターニングポイント(となる出来事)」を、解答者御自身の過去の経験から、探し出すようにしてください。
 ターニングポイント以降の解答者と比較して、ターニングポイント以前の解答者がいかに至らなかったか(ダメだったか)を説明するつもりで、(1)を書くようにすると、(3)の内容がより際立ちます。(3)で優れた点として説明する論点を(1)にも盛りこんで、いかにその時点では至らなかったか(ダメだったか)を説明しておくのがコツです。

●提出していただいた答案を拝見しました。基本的な修辞は優れています。また、過去の出来事と、それをどのように改善したのかについて説明されており、形式的には、課題の要求に応えています。ただし、論旨の不整合や論旨に必要のない記述が若干見受けられました。その結果として、メリハリのない文章になっています。

●以下では、提出していただいた答案に沿ってコメントします。

(添削本文)
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 私は○○食品会社でアイスの流通管理を10年担当している。当製品のアイスは戦後直後から無添加・無香料で生産されており、老若男女に親しまれてきた。
 現在アイス市場の顧客数は○○であり、その数は温暖化の影響で年々伸びている。同業他社との激しい競争や人口減少、また原材料の値段高騰などの厳しい現状はあるが、いまだ伸びしろのある市場であるといえる。
 この10年において最大の変化は、流通革命と技術革命である。10年前は、アイスを運ぶために大量のドライアイスが必要であった。またそれにも限界があるため、各地に工場や流通の起点を設置しなければならなかった。しかし現在は上記の要因により、アイスの効率的な流通が可能となった。まず流通革命とは、大型スーパーなどの取引先に直接商品を仕入れることによる流通経路の短縮化である。つぎに技術革命とは、以上の流通をより効率的に行うことが可能なシステム開発である。これによって運送費用の削減や工場の大幅な削減と集中化が可能となった。しかし、仕入れ先との直接のやりとりやより高度なシステム開発など、メーカーにとっては新たな技術や職務が必要とされることとなった。
 以上を踏まえて私が取り組んできた業務は、○○エリアの流通管理である。○○エリアはこれまで、流通の効率化とシェア拡大が主要な課題となる地域だった。○○エリアにはショッピングモールやサービスエリアなどの大規模な施設がいくつかあり、流通革命による流通経路の短縮をまさに象徴する地域である。しかしかつて当社はその利点を生かし切れず、○○エリアの参入は十分なものと言えなかった。なぜなら大規模小売店舗への売り込みやシステムへの組み込み方などのノウハウが無かったからである。そのために流通管理も不安定で見通しのないものになってしまっていた。これを改善するため、次のような工夫を行った。まず、当社が定期的に行っている全国規模の研修などに積極的に参加し、他エリアの従業員と意見交換をしノウハウを学んだ。同時にシステム開発部門や商品開発部門、営業や広報などの他部署と緊密に連携し、売れ筋の商品や当社が売り出していきたい商品を、いかに効率的に工場から小売店舗に運送するかについての情報を徹底して共有していった。これらの業務改善によって、ほぼすべての○○エリアの大規模小売店舗に当社の商品を直接卸すことが可能となり、流通管理にかんしても、より簡潔に安定した供給が行えるようになった。
 これからはこの業務の経験を活かして、全国規模の研修において積極的に情報発信の側にまわり、他エリアにノウハウを伝えていきたい。そして、当社のさらなる発展を目指し邁進していく所存である。
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 課題の要求と直接関係ないので、削除するか、簡略な記述に留めてください。

 前段落のどこがどうご自身の業務と関連しているのかが曖昧です。つまり前段落とご自身の業務との対応関係が不十分なため、論旨の断絶が感じられます。現在の記述を最大限活かして改善するならば、前段落の「流通経路の短縮」や「システム開発」などのうちどれがご自身の業務に影響したのかを明示してください。
 なお、昇進昇格試験の答案はもとより、企業内の文章では、「論旨の明解な文章」とか「説得力のある論文」を書くように、といわれます。これは「使用されている概念の関係が明確である」ということに他なりません。今回の例で言えば、前段落の重要概念=論点、(「流通経路の短縮」・「システム開発」など)が、次段落の重要概念=論点と菅家付けられていないのです。

 Bと関係しますが、これらはBのどれと関係するのでしょうか。御社を取り巻く全体の環境変化と、ご自身の業務改善の内容の関係を明確にしましょう。改善案としては

【改善案1】
大型スーパーなどの取引先に直接商品を仕入れることによる流通経路の短縮化(環境)
   ↓
流通管理システムの変更・小売店舗との直接のやりとり(自身の業務改善)

【改善案2】
流通をより効率的に行うことが可能なシステムが開発され発達した(環境)
   ↓
新しい流通システムを当エリアに組み込む技術開発(自身の業務改善)

などが考えられます。ご自身の実際の業務経験に照らし合わせて、参考にしてください。

 特に理由もなく「など」・「等」を用いると、文意が曖昧になるので好ましくありません。提示する事例が一つのときは、「など」・「等」を使わないようにし、提示する事例が二つ以上のときのみ「など」・「等」を使うことを、お勧めします。

 持って回った表現です。簡潔に述べることが出来るにもかかわらず、わざわざ無意味な記述を連ねるのは、文の印象を大きく損ないます。これは、本来書くべき自分の主張や意見、またその論証が足りないために、無用な言葉を入れておいただけ、との印象を読み手に与えかねません。書くべき事柄は必要なだけ書き、無くてもかまわない=文意が変化しない事柄は一切書かない、これは論作文の大原則なのです。

 これまでの業務を振り返るという課題の要求と直接関係ないので、削除するか、簡略な記述に留めてください。また小論文において解答者の意気込みは必要ありません。
 (小)論文とは、単なる感想発表や意見表明とは異なります。よく試験答案では熱意を示すと良いと言われますが、単に「一所懸命やります」「誰にも負けないようにします」といった記述をしても、読者は他者との比較のしようがなく、従って採点者は適切な評価ができません。熱意に示すには、その結果である豊富な知識や高い問題意識を示すのがもっとも有効な方法なのです。

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 以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。