WIE小論文navi:慶応大添削コメント例[文学部]05年(1)
このコメントは、WIE小論文navi添削講座「慶応大小論文(論述力試験・論文テスト)」で実際に行われたものです。
大学別小論文(慶大 文) 05年-1回目
(添削コメント)
大筋では設問の意図に沿った適切な小論文解答になっています。しかし、ギリギリ合格圏内の小論文答案と評価させて頂きました。なぜなら、いくつか概念上の操作に問題があるところが残っているからです。その点を指摘しておきますので、再提出の際は文句なしの合格小論文答案を目指して努力して頂きたいと思います。
なお、読解についてご質問でしたが、初回でここまで読み取れていることからしても、A様の読解力は既にある程度高度な状態に達していると思われます。おそらくは、読解をどれだけ正確かつ素早く行えるか、という技術について問題を感じていらっしゃるのでしょう。
まず、重要概念に線を引くと膨大な数になってしまうとのことでしたね。確かに仰る通りで、とりあえず線だけ引いて後から内容をまとめようと思うと、非常に骨が折れる作業になってしまいます。これはそのための作業ではなく、重要概念に焦点をあてた、より深い読解を可能にするためのものだとお考え下さい。
目で追うだけでは、文章の内容は、なかなか頭に入ってきません。本来は声に出して読むのが最も良いのでしょうが、試験場ではこれは許されませんね。だから線を引くのです。授業中にノートを取るのは、ただ聞く・見るだけではなく、同時に体を使った方が、理解が深まるからです。それと同じ事をよりスピーディに行っているのだという感覚を持ちながら、小論文の課題文を読みながら線を引くことで、その内容を頭に入れるように心がけましょう。
内容を読み取るという点では、接続詞に注目するのは良い方法ですね。具体例にあまり注目しないという方針も基本的には間違っていませんが、下線などを引かれている場合は注意しましょう。その具体例が重要概念となっている場合も考えられるからです。
線を引くとごちゃついて見にくいというのであれば、概念の部分にチェックを付けるなど、独自の工夫をなさってみて下さい。また、重要概念というのは、常に単語そのものであるとは限りません。中には、1文そのものが重要概念となる場合もあるでしょう。その場合は無理に単語を切り取るのではなく、その部分全体をチェックしておくようにして下さい。
こうして大体の内容が頭に入ってから、その整理に入ります。その際、小論文の課題文に沿った正確なまとめができるよう、先程引いた下線の記述を参照するとよいでしょう。
以上、WIEのお勧めする読解法の活用のしかたを少し解説させて頂きました。次回からはこれも参考にして頂ければと思います。
それでは以下、個々のコメントです。
────────────────────────────────────────
設問Ⅰ
大筋では間違っていないのですが、細かい部分で小論文の課題文との齟齬があります。また、日本語として文意の取りにくい箇所もありましたので、その点でも修正が必要でしょう。
a:小論文の課題文では「社会化」という語が繰り返し使われていましたね。この語は、若者の個性(内閉的個性)と対立する重要概念なのです。ですから、答案内にも盛り込んでおくべきでしょう。
b:「独自性を認識するかどうか」よりも、ここで重要なのは、「個性のできかた、構築のしかた」ということです。こうした内容に改めた方が、より小論文の課題文に沿った、読み手に理解しやすい文章になるでしょう。
c:小論文の課題文の内容と齟齬があります。若者は個性を「自らに生まれつき備わっている固有の実在」として考えているのです。「素のままの存在感」に価値を認めるとは記述がありますが、これを個性として捉えているとは、小論課題文のどこにも記述がありません。
d:これを指摘する前に、「言葉によって構築された思想や心情が時間を超えて安定的に継続しうる」ことを述べなければ、なぜ直感に依存した個性(課題文通りの記述を心がけましょう。「生理的、衝動的を重視した自己」では文意が通りにくくなってしまいます)が持続性や統合性を保てないのか、理解できません。
まず言語と感覚との関係を述べ、その上で感覚に依拠した自己の話をするようにしましょう。
e:日本語として意味不明です。
────────────────────────────────────────
設問Ⅱ
相談コーナーの回答者として解答を作成している点、また少女の悩みに沿った小論文の回答を考えている点、いずれも結構と存じます。合格小論文答案と判断できますが、一部に、課題文を知らない人が読んだ場合、意味を読み取りにくいと思われる箇所があります。その点を修正すれば、文句なしの合格小論文答案になるでしょう。
a:通常の小論文とは異なりますので、ある程度の口語は許されます。しかし、試験という性質を考えますと、どうしても口語で表現しなければならないという部分を除き、なるべく文語で表現しておいた方が良いでしょう。
b:これまでに学校で習った範囲のものについては、なるべく漢字で書くよう心がけて下さい。
c:この部分は、小論文の課題文を知らない人にとってみれば、今ひとつ意図が不明確な記述です。そもそも、キャラ観についての歴史的考察は、若者の内閉的個性を説明するための前振りのようなものであって、これ自体に何か有用な意味が含まれているものではありません。
何より、少女は自分が意図的に何かを演じている、という感覚は持っていないわけですから、その点でもこの指摘は筋違いではないでしょうか。
d:論理矛盾です。衝動的な感情からは個性が生まれないと言っているのなら、気分次第でふるまっている彼女には、個性が育っていないと言えるでしょう。それなのに、ここで「個性がないからではなく」などと含みを持たせた表現をしてしまえば、読み手が混乱してしまいます。
e:小論課題文の記述を読んでいますと、個性は社会生活の中で培っていくものだとありますね。そうしますと、一定の個性が醸成されるまでの間には、個性は時と共に変化していくと考えられます。その点をふまえ、記述を修正する必要があるでしょう。
f:cの修正でできた字数の余裕を使って、ここで具体的なアドバイスをしてあげると、小論文の回答として完成度がより高まります。また、行動や意志を決定するのは、「そうなる」前でしょうから、何かをしたいと思ったときに、なぜそのように考えたのか、その結果どうなるか、周囲からどのように評価されるか、などを判断材料として提案してあげてはいかがでしょうか。
────────────────────────────────────────
以上を参考に、小論文の答案を修正して再提出して下さい。
WIE西早稲田教育研究所
太田 玲
※通信欄については、(添削コメント)の部分に回答してあります。