WIE小論文navi:慶応大添削コメント例[文学部]05年(5)
このコメントは、WIE小論文navi添削講座「慶応大小論文(論述力試験・論文テスト)」で実際に行われたものです。
慶應大学小論文(文学部) 05年-1回目
(添削コメント)
課題文から、答案に関係する概念は抽出できているのですが、それらを問いに沿った形に整理して展開できていません。特に設問Ⅰにその傾向が強いのですが、「何故パラドクスが生じることになるのか」につき、筆者の考えをまとめるよう要求されているのに、このパラドクス(=逆説)の構造を小論文答案内で明確に示せていないのです。正答となるにはあと一歩のレベルに達していると思われるだけに、非常に残念です。再度取り組む際は、「何を問われているのか?」を常に念頭に置き、小論文答案を作成するよう心がけて下さい。
なお、語彙不足と思われる誤字が散見されます。辞書を引き、正しい表記を覚えると同時に、その語の意味について再確認しておいて下さい。
それでは個々のコメントです。
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設問Ⅰ
課題文に出てくる、「若者の個性」に関係する概念をただ並べただけでは、ここでの小論文解答として成立しません。どのようにしてパラドクスが生じるのか、その過程が理解できるように、課題文内の筆者の見解を整理して展開しなければならないのです。
課題文内の「現代の若者の個性観」、「内発的衝動=自分らしさという解釈」、「自己意識の断片化・拡散」には、相互に密接な関係があります。この関係を追っていけば、「現代の若者の個性そのものについてのパラドクス」が指摘できるはずです。つまり、「個性は自己に内在し、すでに完結しているものと認識するがゆえに、内発的な衝動こそ自分らしさだと解釈するが、このような感覚は刹那的なものでしかないため、自己意識が断片化・拡散し、持続した個性を認識できない」というのが、ここで示すべきパラドクスの構造なのです。
このように、「完成した個性をもっていると認識しているがゆえに、かえって個性を消失してしまう」ということが小論文答案の軸となるよう、書き直して再提出してください。
※:問題番号がありません。ご面倒でも、小論文答案提出の際は必ず番号を付して下さい。
A:これらの事柄を、相互の関連性を明確にして整理しましょう。
α「生まれながらにして自己の内部に完結した個性が備わっている」
β「内発的な衝動、身体的な感覚=自分らしさと認識する」
γ「自己意識が断片化、持続した個性を実感できない」
その上で、「αゆえにβだが、βの結果γという状態に陥ってしまう。」という関係(さらに、ここでαとγが矛盾するものであることに注目しましょう。こうしてパラドクスが成立するわけです)が明確になるよう、小論文答案を整理して書き直して下さい。
a:課題文の拡大解釈をしてしまいました。「他者から常に全人格的に評価されていると感じる」からといって、相手を全人格的に見ているかどうかは不明です。課題文の内容を説明する問題では、小論文解答者の解釈の余地はほとんどありません。小論文解答者の自由な解釈を答案内に盛り込んでしまうと、減点の対象となりますので、注意して下さい。
なお、これはAの観点から、パラドクスを説明する上であまり重要な箇所ではありません(=αβγとの関係が薄いということ)ので、小論文答案から削ったほうが良いでしょう。
b:なぜ「内発的衝動を切実なものととらえ」、「身体的感覚を重視」するのでしょうか? それは、「自分の中に個性を探し、他者に対する意識が希薄化している」からですね。この点を明確にし、αとβの関係を明示して下さい。なお、これは単なる「身体的感覚」では不適当です。「自己」と「社会」が対になる重要概念になっていますから、ここは正確に「自己の」身体感覚と記すべきでしょう。
c:βからγへの因果関係が適切に表現できていません。身体的感覚とはどのようなものかを説明し、「したがってβのようにふるまうと、自己意識が保てない」という形で説明すべきです。
相互に関連の薄い事柄を、課題文から断片的に抽出して並べるのではなく、「こうだからこうなり、その結果こうなる」と説明できる密接な関係を持った概念群を探し、それを活用しましょう。
d:まとめとして不適です。パラドクスを説明するよう指示されているのですから、ここでは、「完成した個性をもっていると認識しているがゆえに、かえって個性を消失してしまう」と述べるべきでしょう。
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設問Ⅱ
悩み相談の回答者としての語り口で書かれており、その点は非常に評価できます。ただ、「個性」に関する課題文の記述を理解しきれていないことが、小論文答案の記述から窺えます。
A様のように、筆者の見解を完全に支持する形で小論文答案を作成するのなら、課題文の正確な理解は必須です(なお、この問題では、筆者の見解に反することを書いても構いませんが、それでも筆者の見解を正確に理解していることが求められます)。以下のコメントを参考に、筆者の「現代の若者の個性観」を把握しなおして下さい。
※:問題番号がありません。ご面倒でも、小論文答案提出の際は必ず番号を付して下さい。
a:小論文とは異なり、常体・敬体のいずれで書いても構いませんが、混用は御法度です。
b:どのような感情、考えを個性と呼ぶのでしょうか。筆者の見解が明確になるよう、もう少し記述を補って下さい。
筆者が言いたいのは、多くの人とただ接すればよいというものではありません。自分と他者との比較をしながら、他者との相違点を探りつつ、自分の「個性」を育てていくということです。
c:付き合う友達によって自分が変わってしまうのでは、結局一貫した個性を感じることはできませんね。色々な友人と出会い刺激を受けることは重要ですが、その時にその友達やその場の雰囲気に流されて(つまり、身体的感覚を働かせて)行動しては、一貫した個性を育てることはできません。重要なのは、友達との間に生じる「差」を大切にすることであって、友達に盲目的に同調してしまってはいけないのです。この点を明確にしておく必要があるでしょう。
d:これでは、「個性」が、「生まれた時にもっているもの」と「後から育てるもの」と二種類あるかのように読み取れてしまいます。しかし、実際は、誰も個性を生まれた時から持ってはいませんね。むしろこのことを少女に教えてあげるべきではないでしょうか。
e:少女は現在でもつきあう友達がいるのですから、このような個性の考え方を持ちつづけたからといって、世間から遠ざかり、寂しい思いをすることはないと考えられます。A様がそう考えるのなら、なぜ今のような個性の捉え方をしていれば、そのような状態になるのか、説明する必要があるでしょう。
なお、課題文には、「最近の若者の個性についての考え方には、他者の存在が希薄だ」とありますが、これは「引きこもり」のように、世間から遠ざかっているわけではありません。逆に言えば、若者の方が他者を必要としていないわけで、他者のことを考慮しないまま、自分の身体的感覚に即して公共の場等でふるまうのであって、これは「社会と隔絶している」「友達がいない」などといった状態ではないと考えられます。
あるいは別の意味で「世間」という概念を用いていらっしゃるのかもしれませんが、その場合、「世間」についての概念規定が必要でしょう。
f:色々な人とただ関わるのではなく、その中で「自分」と「他者」との差を明確にしていくこと、なるべく身体的感覚に流されることのないよう心がけることをアドバイスしてあげると、さらに良いと思われます。
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以上を参考に、小論文答案を修正して再提出して下さい。
WIE西早稲田教育研究所
慶応大学小論文担当
太田 玲