WIE小論文navi:慶応大添削コメント例[文学部]05年(7)
このコメントは、WIE小論文navi添削講座「慶応大小論文(論述力試験・論文テスト)」で実際に行われたものです。
大学別小論文(慶大 文) 05年-1回目
(添削コメント)
真剣に取り組んだとのこと、通信欄にお書き添え頂きました。お送り頂いた小論文は、いずれも合格答案となるにはまだまだ改善の余地がありますが、引き続き頑張って取り組んで頂きたいと存じます。
慶應大学文学部の小論文入試の特徴は、課題文の難易度が比較的高いということです。ですから、まずはこの内容理解に成功することが、合格小論文答案への第1歩となります。特に最近は内容説明を問われる問題が多くなっていますので、ますますこの重要度は上がっていると言えるでしょう。今回も、この点を重点的に検討していきます。
それでは以下、個々のコメントです。
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設問Ⅰ
筆者の言う「パラドクス」の構造を、解答内で明確に示せていません。若者の「自分らしさ」を感じるためのふるまいに注目して小論文解答を作成していますが、「パラドクス」を説明するには、それに加えて「現代の若者の個性観」についても説明する必要があります。
筆者の言うパラドクス、すなわち「自分の個性は普遍的な実在であると信じて行動するがゆえに、かえって自己意識が断片化し、そのことを実感できない」ということが答案の軸となるよう、書き直して再提出してください。
*:これが読点だということは解答をじっくり見ていけばわかるのですが、一見しただけでは「小字のつ(=っ)」にも読み取れてしまいます。読点は、丸で囲んだような形で統一するのが望ましいですね。
a:小論文解答として単語ではなく文章を求められている場合は、原則として答案冒頭は1マス空けるようにしましょう。
b:課題文通りの表現を心がけましょう。筆者は、このような認識をもっているのは「最近の若者」だと述べていますね。
c:この部分に、筆者が言う現代の若者の個性観を盛り込みましょう。つまり、現代の若者には、「生まれながらにして自己の内部に完結した個性が備わっている」という認識があるということを示すのです。このような認識を持つがゆえに、「内発的な衝動、身体的な感覚の発露=自分らしいふるまい」だと考えるわけです。
お書きになった小論文答案でパラドクスを的確に説明できていないのは、この関係性の説明が不足しているためだと考えます。この点を明確にするために、上に示した概念を解答に盛り込んで下さい。
d:パラドクス(逆説)を的確に説明できていません。逆説とは、「ある命題から正しい推論によって導き出されているように見えて、結論で矛盾をはらむ命題」のことです。分かりやすく言えば、「ある信条に基づいて考え、行動していった結果、最終的にはその信条とつじつまの合わない状況に陥る」ということです。
おそらくは出発点となる「信条(=最近の若者の個性観)」を答案内に盛り込めなかったことが原因かと思いますが、ここでの記述は、「こう考えたから、こうなった」という関係になっており、つじつまの合わない状況になっていることが明示できていません。
「個性は自己に内在し、すでに完結しているものと認識するがゆえに、内発的な衝動こそ自分らしさだと解釈するが、このような感覚は刹那的なものでしかないため、自己意識が断片化・拡散し、結局持続した個性を認識できない」という関係を、ここでまとめましょう。
e:課題文通りの記述を心がけましょう。些細な点ではありますが、小論文採点者によっては、こういう点も厳しく減点されることがあります。
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設問Ⅱ
設問の指示に従い、相談コーナーの回答者としての語り口で書かれている点は非常に評価できます。ただ、「個性」に関する課題文の記述を理解しきれていないことが、答案の記述から窺えます。もちろんここにはご自身のお考えを述べて頂いて構わないのですが、筆者とは異なる見解を持つのであれば、その旨(ご自身が考える「個性観」)を明らかにせねばなりません。
ただ、少女の悩みを理解するためには、課題文の記述を参考にするところが大きいと思われますので、その点で課題文理解に問題があると、やはり解答としては評価の低いものとなってしまうでしょう。
*:これが読点だということは解答をじっくり見ていけばわかるのですが、一見しただけでは「小字のつ(=っ)」にも読み取れてしまいます。読点は、丸で囲んだような形で統一するのが望ましいですね。
a:解答として単語ではなく文章を求められている場合は、原則として答案冒頭は1マス空けるようにしましょう。
b:L様は、「個性は永遠に変化し続けるもの」と考えているのでしょうか? 現状では、L様の個性観が曖昧で、読み手に理解できません。ご自身が個性をどのようなものと捉えているのか、説明して下さい。
なお、筆者は「生まれもったはずの素朴な自分のすがた=個性」という見解に否定的ですが、「社会のなかで創り上げていく(上げる=なしとげる、仕上げるの意)」という記述からすると、一定の自我の確立は可能と考えているように思われます。
c:意味上の重複が見られます。「生来」とは「生まれてから今まで」という意味ですから、「から」という意味は既に含んでいることになります。
d:少女の悩みについて、誤解を多く含んでいる解釈です。もし「気配りが上手で自分を抑えて周囲と合わせている」のなら、「本来の自分を抑えている」ということですから、一貫した自分を感じているはずです。また気分次第で変わるというのは、自分の喜怒哀楽に従い、同様の状況でもふるまいが極端に違ってしまうということですね。したがって、これはどう解釈しても「感情表現が豊かだ」とは言えないでしょう。「感情表現が豊か」というのは、自身の感情をちょっとした仕草(目線や手の動きなど)で上手に伝えられるとか、文章で的確に伝えられるなどというようなときに使います。つまり、「他者よりも、感情を伝える手段を豊富に持っている」という意味ですね。
筆者は、「生まれもったはずの素朴な自分のすがた=個性」と考える最近の若者は、「自分の生理的な衝動や感覚の発露=自分らしさ」と考え、そのゆえに一貫した個性を認識できない、と推測しています。その推測に基づくなら、「自分らしさというのがまったくわかりません」「付き合う友達によって変わってしまう自分」「気分によって変わってしまう自分」と訴えるこの少女も、このようなパラドクスを抱えているのではないかと考えられるわけですね。
このような推測のもと相談に答えるなら、「生まれもったはずの素朴な自分のすがた=個性」という考えを捨てるようアドバイスすることになると思います。「個性とは本来、社会生活における他者と自分との比較の中で発見し、その人間関係のなかで培っていくものだ」ということを告げるでしょう。また、彼女はまだ成長途中であり、個性が確立していなくてもそれほど気に病むことはないと伝えて彼女を安心させてあげることも一案です。さらに、気分次第で動いていてはいつまでたっても一貫した個性は感じられないことを教えてあげてもよいですね。
以上、簡単ではありますが、課題文筆者の見解に基づいた回答の骨子をご紹介しておきました。最終的にはご自身の個性観とも併せ、小論文答案を全面的に書き直してみて下さい。
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以上を参考に、答案を修正して再提出して下さい。
WIE西早稲田教育研究所
慶応大学小論文担当
太田 玲