WIE小論文navi:慶応大添削コメント例[文学部]05年(8)

このコメントは、WIE小論文navi添削講座「慶応大小論文(論述力試験・論文テスト)」で実際に行われたものです。


大学別小論文(慶大 文) 05年-1回目
(添削コメント)
  基本的な国語力・文章構成力は十分なものと拝察しますが、一部設問の指示に沿った記述になっていない部分がありました。小論文試験では、設問の指示は絶対です。これに従わなければ、採点対象外とされる場合もあり得ますので、設問文の読み取りは慎重に行って下さい。
  また、課題文の内容把握についても、不十分な点が見られます。筆者が示す「最近の若者の個性観と彼らの行動様式」について、厳密な読み取りを行って下さい。

  それでは以下、個々のコメントです。
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設問Ⅰ
  筆者の言う「パラドクス」の構造を、解答内で明確に示せていません。筆者の言うパラドクス、すなわち「自分の個性は普遍的な実在であると信じて行動するがゆえに、かえって自己意識が断片化し、そのことを実感できない」ということが小論文答案の軸となるよう、書き直して再提出してください。
  また、課題文の読み取りにも一部問題があります。細かいことと思うかもしれませんが、恣意的な解釈をすることによって、課題文の記述と齟齬が生じてしまいます。課題文解釈は厳密に行って下さい。

a:課題文の記述と齟齬があります。現在、全ての世代でこのような個性の捉えられ方がされているわけではありませんでしたね。筆者は「最近の若者」に限定し、こうした個性観を持っていることを説明しています。その点を正確に記述する必要があります。
b:上にも述べましたが、恣意的な課題文解釈になってしまっています。課題文では、最近の若者の個性観について、「個性=感情」という書き方はしていません。個性というのは、「生まれもったはずの素朴な自分のすがた」「本源的に自己に備わった実体」だとしていますね。そして、こうした個性観を持っているがゆえに、社会的な行為基準に照らして行動するのではなく、自らの生理的な感覚や内発的な衝動に従って行動するという関係を指摘しています。この点を明確に説明しなければなりません。
c:主部と述部が、正しく対応していません。また、「個性」という語に重複が見られます。
d:これは「パラドクス」を説明する上で、必ずしも重要な概念ではありません。
e:ここで、「彼らが内発的な衝動、身体的な感覚を重視し、それに基づいて直感的に行動する」ということを、最近の若者の個性観と結びつけて説明して下さい。ヒントを申し上げれば、「内発的な衝動、身体的な感覚の発露=自分らしいふるまい」ということですね。
f:課題文の記述と齟齬があります。課題文では、「若者の行動指針となる直感は、内発的衝動や生理的感覚によるものであるため、刹那的にしか成立しえず、従ってこの直感に依存する自己は、断片化してしまう」という構造になっています。このどれかを省略してしまうと、この関係を的確に示すことができません。
g:パラドクス(逆説)を的確に説明できていません。逆説とは、「ある命題から正しい推論によって導き出されているように見えて、結論で矛盾をはらむ命題」のことです。分かりやすく言えば、「ある信条に基づいて考え、行動していった結果、最終的にはその信条とつじつまの合わない状況に陥る」ということです。
  おそらくは出発点となる「信条(=最近の若者の個性観)」を正確に把握できなかったことが原因かと思いますが、ここでの記述は、「こうだから、こうなった」という説明になっており、つじつまの合わない状況になっていることが明示できていません。
  「個性は自己に内在し、すでに完結しているものと認識するがゆえに、内発的な衝動こそ自分らしさだと解釈するが、このような感覚は刹那的なものでしかないため、自己意識が断片化・拡散し、結局持続した個性を認識できない」という関係を、ここでまとめましょう。
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設問Ⅱ
  設問の読み取りミスです。与えられた少女の悩みを正確に理解していません。従って、この小論文答案は全面的な書き直しが必要となります。再度少女の悩みを正確に理解し、「この少女の悩みに対して、自分ならばこのように答える」という文章を書き上げて下さい。
  また、課題文をふまえた記述になっていない点も気になります。もちろんここではご自身のお考えを述べて頂いて構わないのですが、筆者とは異なる見解を持つのであれば、その旨(ご自身が考える「個性観」)を明らかにせねばなりません。
  ただ、少女の悩みを理解するためには、課題文の記述を参考にするところが大きいと思われますので、その点で課題文の内容と齟齬があると、やはり解答としては評価の低いものとなってしまうでしょう。

a:少女の悩みを正確に読み取って下さい。ここでは、「付き合う友達によって変わってしまう自分」「気分によって変わってしまう自分」という書き方がされており、「言動が変化する」とは一言も述べられていません。
  「自分が変化する」というのはあまり一般的でない状況かもしれませんが、これは課題文のいう、「自分の寄せ木細工」という状態を示すと考えられますね。「老人ホームでお年寄りの世話をしたりする一方で、同級生や教師に暴力をふるう」という事例も紹介されていました。この少女がこうした極端な状態にあるとは考えられませんが、程度はどうあれ、彼女が課題文筆者の言う「パラドクス」を抱えていることが、悩みの内容から読み取ることができます。
  このような推測のもと相談に答えるなら、「生まれもったはずの素朴な自分のすがた=個性」という考えを捨てるようアドバイスすることになると思います。「個性とは本来、社会生活における他者と自分との比較の中で発見し、その人間関係のなかで培っていくものだ」ということを告げるでしょう。また、彼女はまだ成長途中であり、個性が確立していなくてもそれほど気に病むことはないと伝えて彼女を安心させてあげることも一案です。さらに、気分次第で動いていては、いつまでたっても一貫した個性は感じられないことを教えてあげてもよいですね。
  以上、簡単ではありますが、課題文筆者の見解に基づいた回答の骨子をご紹介しておきました。最終的にはご自身の個性観とも併せ、答案を全面的に書き直してみて下さい。
b:前提となるaの部分に誤りがありますので、以下の全ての記述は、この設問の解答として妥当ではないことになります。
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  以上を参考に、小論文答案を修正して再提出して下さい。

WIE西早稲田教育研究所
慶応大学小論文担当
太田 玲


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