WIE小論文navi:慶応大添削コメント例[文学部]06年(4)

このコメントは、WIE小論文navi添削講座「慶応大小論文(論述力試験・論文テスト)」で実際に行われたものです。


慶應大学小論文(文学部) 06年-2回目
(添削コメント)
  設問Ⅰに関しては、文句なしの合格小論文答案です。ただ、残念ながら、設問Ⅱに関しては、ご自身の解釈とそれを裏付ける課題文の内容とが、1つの意味の流れをもった文章の形で示されていません。課題文から抽出してきた文章をただ羅列するのではなく、ご自身の意図で明確につなぎ合わせ、1つのまとまりをもった文章を提示して頂きたかったところです。今回、H様の解答とは方向性が少し異なりますが、この参考例として文例を提示させて頂きますので、文章のつなぎ方や展開の仕方について確認しておいて下さい。

  それでは以下、個々のコメントに参りましょう。
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設問Ⅰ
  前回の指摘をふまえ、的確に修正できていますね。文句なしの合格小論文答案と言えるでしょう。今回修正すべき箇所はありません。

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設問Ⅱ
  課題文の内容理解が不十分な点があったためか、ご自身の解釈とそれを支える課題文からの抽出とが、的確に繋がれていません。また、日本語として不適切な記述も見られます。こうした点に留意して、ご自身の解釈を軸に、1つの意味のまとまりをもつ日本語として正確な文章を書くよう心がけて下さい。

a:課題文では「国民」と明言されていませんので、その点に配慮した記述に改めます。
b:これ以降は、「失明」という概念からいったん離れますね。ここでひとまず「失明した社会とは…」で始まる文を終わらせてしまいましょう。
  以降の記述も間違いとは言えないのですが、「重視」など、「失明」に反する状態を示唆する言葉があるため、読み手の混乱を招くおそれがあります。
c:日本語として整理されていません。「行為」を軸として、この内容を整理された日本語にまとめましょう。例えば、次のように。
  この社会は経済成長のために、正負を問うことなく、間断なく物事を生み出し続けるという「行為」を肯定してきた。
d:「行為」とありますが、これだけではこの社会が重視する「行為」の説明としては不十分です。課題文によると、この「行為」とは、作らないこと・差し控えることではなく、「正負を問わず間断なく物を生みだし続けること」ですから、この点が明確になるように記述を改めましょう(下の修正例をご確認下さい)。
e:常体と敬体が併用されており、文体が不統一になっています。なお、これは接続詞として、前後の文を的確につないでいるとは言えません。「この行為基準を推し進めた結果、」などの言葉でつなぐのが正しいでしょう。
f:「何が」抑制できないのか、読み手には意味不明です。
g:課題文の内容と齟齬があります。これでは、「自身」というのが社会を指していることになってしまいます。課題文では、「(社会で暮らす市民が)自分自身を含む社会関係の破壊を推し進める行為に、集団的に加担する」と述べられていましたね。
h:課題文の内容と齟齬があります。「信用の暴力的な毀損」が、「社会の核を腐蝕し続ける」という関係になっています。
i:「その意志とは裏腹にも」とはどういうことでしょうか。課題文にこのような記述がない以上、これは削るべきでしょう。
j:課題文解釈として誤り。この社会のふるまいが、「物事を徹底的に対象として扱う思考の帰結」なのです。
k:「この全体主義的思考」とありますが、この前に、まず身体の患部を社会の患部と見なして根治しようとする思想が、「全体主義的思考」であることを説明する必要があるでしょう。
l:先に述べたことを、繰り返し述べる必要はありません。また、ここまでの説明で自明ですが、「周りが見えていない」から社会がそこに暮らす人々の個性を尊重して見ることができないわけではありません。これは割愛しましょう。

※以上の修正を反映させると、以下のような文章になります。(397字。赤下線、英小字はコメント該当部)
  「失明した社会」とは、そこに暮らす人々aを個性のある人間として尊重して見ることができなくなった社会のことであるb。この社会は経済成長のために、正負を問うことなく、間断なく物事を生み出し続け、利益を追求するという「行為」を肯定してきたcd。この行為基準を推し進めた結果e、この社会に暮らす人間gは、無意識のうちに他者に苦痛を与え続け、他者からの信用を暴力的に毀損するとともに、自身を含む社会関係の破壊に集団的に加担することとなったh。また、こうした社会の状態は、物事を徹底的に対象として扱う思考の帰結jでもある。そこでは人間も例外でなく、薬物投与の数値対象・実験対象として扱われる。したがって、「治癒する肉体」「病気とつきあう体」に目を向けられることなく、個人の患部は社会的患部と見なされ、根治のために大量の薬物が投下された。こうした「根こそぎ」「皆殺し」の思想は、20世紀の全体主義に通底するものだと言えるk。

※また、先にも述べた通り、小論文解答例を付します。どのような書き方をすれば全ての要素が1つにまとまるのか、参考までにご覧下さい。
【小論文解答例】(399字)
「失明した社会」とは、現代社会が経済社会として、盲目的に利益を追求してきた事実を示しているだろう。この社会は目的合理性の追求に極度に固執することで、薬害被害者をはじめとする他者の苦しみに対してこの上なく鈍感になっている。「中身を問わず何事かを行うこと、何かをつくりだすことそれ自体に対して肯定的」で、「正負」つまり善悪の判断なしに経済成長に邁進することは、産・官・学の共犯関係の上に成立している。万物を加工の対象としてきた経済社会は、遂に人間さえも対象化するに至り、その結果人々の間の信頼は分断され、「自己意識なき荒れ地」としての現代社会が出現している。そしてこの傾向は、クロロキンが大戦中に開発されたという事実が示すように、「治癒する肉体」にも「病気とつきあう体」にも目差しを向けず、ただ「根治」「根絶」のみを目指しており、20世紀の全体主義の「根こそぎ」「皆殺し」の思想と通底しているという。
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  以上です。

WIE西早稲田教育研究所
慶応大学小論文担当
太田 玲


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