WIE小論文navi:慶応大添削コメント例[文学部]06年(5)

このコメントは、WIE小論文navi添削講座「慶応大小論文(論述力試験・論文テスト)」で実際に行われたものです。


大学別小論文(慶大 文) 06年-1回目
(添削コメント)
  07年の小論文同様、課題文の概要は把握できているのですが、細かい部分の解釈や設問の読み取りに問題があります。ただ、合格圏まではあと一歩というところです。設問に即した小論文解答のしかた、課題文のさらなる読み込みで問題は解決しますので、頑張って取り組んで下さいね。
  なお、点数表記の件については、先にお返しした07年-1回目の小論文添削をご参照頂ければ幸いです。

  今回の問題は、課題文の内容説明に終始しており、純粋な小論文解答者の見解を求める設問はなくなっています。このため、単なる国語の問題と捉えて解答を作成しがちですが、それは間違いです。これはあくまで、「小論文試験」の問題です。
  特に設問Ⅱの解答作成には、国語の問題に顕著な、課題文中の一部抜粋や、傍線部近辺の要約の技術では太刀打ちできません。課題文全体の内容を理解した上で、それを自分なりに再構成し、論理が首尾一貫した1つの解釈を作成するよう求められているのです。この「自分なりに再構成」という部分に、小論文としての要素があると言えるでしょう。

  このことをふまえた上で、個々のコメントをしていきます。
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設問Ⅰ
  「クロロキン網膜症」の問題に限定しすぎた解答になってしまいました。確かにこの「測定不能」という文字が出現するのは、クロロキン網膜症についてのドキュメンタリー映画の1場面ですが、筆者はこの映画をもとに、この社会がどのようなものであるかという分析を行っていますね。つまり、クロロキン網膜症という具体的な事例をもとに、社会全体という一段抽象度の高い概念について考えているわけです。そのことを明示する必要があるでしょう。

a:解答として単語ではなく文章を求められている場合は、原則として答案冒頭は1マス空けるようにしましょう。
b:上にも述べましたが、社会全体の欲望は、「クロロキンの大量投与」に限定されるものではないでしょう。したがってここでは、「測定社会」の欲望について、課題文の記述をもとに、クロロキン網膜症の事例に特化することなく小論文で説明しなければなりません。
  「測定社会」とは具体的にどういうものか、分かりにくいかもしれませんので、ヒントを差し上げておきます。課題文4/8ページ上段に、「人間が自分たちをとりまく世界を対象化し、切り分け、支配統制することの上にのみ存立してきた社会」とありますね。これこそ、「測定社会」の具体的ありように他なりません。自分たちの周りにある自然を対象化し、計算・計量によって操作、利用してきたということですね。この姿勢を貫いた結果、最終的には人間までもが対象化され、切り分けられ、支配統制されてしまいました。その結果として、「測定不能」の生活破壊が生じたという関係になっています。
c:「測定社会」がその欲望を貫いた結果、「測定不能」の生活破壊が生じたというのは、多分に逆説的ですね。この点についても触れられると、答案の完成度はさらに高まります。
  合格小論文答案となるための必須条件ではありませんが、検討してみて下さい。
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設問Ⅱ
  ここは、課題文の記述をもとに、「失明した社会」とはどのような社会のことかについての、小論文解答者ご自身の解釈を示すことが求められています。従って、現状のように、課題文の抜粋を連ねていくのではなく、まずは「筆者の述べる「失明した社会」とは、○○な社会のことである。」と、簡潔にご自身の解釈を述べて下さい。その上で、課題文の記述を適宜用いながら、制限字数内でご自身がそのように解釈した根拠をまとめて頂ければ、合格答案となります。

a:これら課題文の抜粋がご自身の解釈に結びつくように、記述を改めて下さい。現段階では、「ご自身の解釈」としてこの解答は成立していません。「筆者の述べる失明した社会=個人の姿が全く見えていない社会」というご自身の解釈について、こうした課題文の記述を根拠に、説明を行って下さい。
  なお、課題文からの抜粋が多いためか、一部正しい日本語の文章として成立していない部分や、課題文の内容に照らして齟齬がある部分が散見されます。以下で詳しく解説していますので、書き直す際は、該当するコメントをふまえ、課題文の概念の再構成を行うよう注意して下さい。
b:まずはこの部分を、小論文の答案冒頭で明らかにしましょう。「失明した社会」とあるからには、「何かが見えなくなった」、あるいは「何かを見る(感じる)力を失った」社会といったように、「失明」との関連を明確に示さなければならないのですが、この点A様は配慮されているので、評価できます。
  あとは、このように考えた理由を裏付けるものとして、課題文の記述の中で該当するものを挙げながら、「個人の姿が全く見えていない」とは具体的にどういうことか説明して頂ければ、合格圏の小論文答案となるでしょう。
  なお、「現代の経済社会は『失明した社会』なのである」とありますが、この関係は、設問で具体的に規定されているわけではありません。つまり、これもご自身の解釈の一部となりますので、書き直す際は、
筆者の述べる「失明した社会」とは、個人の姿が全く見えていない、現代の経済社会のことである。
などとすべきでしょう。
c:つなぎの言葉がありません。したがって、前文と後文との関係が、読み手に不明確です。文がただ並べられているだけでは、それは文章ではありません。読み手が述べたい主題について、1つの意味の流れに沿って、それぞれの文や概念が相互に結びつけられてはじめて、文章と呼べる存在になるのです。
  課題文のあれこれをただ書き並べるのではなく、ご自身の解釈に沿った論述を行って下さい。
d:不適切な接続語です。接続語として何を使うかを選択する際には、前後の記述をよく見比べ、それぞれがどのような関係になっているか、またどのような事柄を述べ、主語述語は何かをよく考える必要があります。
  お書きになった答案では、クロロキン薬害をもたらした病院や企業、役人の行為が、この社会が関係の基礎をなすべき信用によって仲立ちされない「荒れ地」となってしまったことの理由であるかのように読み取れてしまいます。
  実際には、病院や企業、役人の行為は、こうした社会のありようを示す事例として、課題文内に盛り込まれています。この関係が明確になるように、接続語を改める必要があるでしょう。
e:課題文の内容と齟齬が生じています。身体の患部が根治の対象となるのは、隙間、余白を許容しない思考様式があるためです。また、「対象と見なすため…対象となり」と、同語反復的な記述になってしまっていますので、その点も改める必要があるでしょう。
f:課題文の内容と齟齬が生じています。もっとも脆弱な人々の身体の自由や未来を破壊するのは、「このような思考」ではなく、「社会」です。
  なお、ここで「思考」を主語としているため、述部とねじれが生じてしまっています(「このような思考は、…個人の姿が全く見えていない」)。今回は大幅な書き直しをお願いしていますので、あまり構造上の問題点は指摘しませんでしたが、基本的な文法に従って文章をつづれないようでは、文学部では大きく減点されてしまうこととなります。注意してください。
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  以上です。

WIE西早稲田教育研究所
大学別小論文担当
太田 玲


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