WIE小論文navi:慶応大添削コメント例[法学部]05年(3)
このコメントは、WIE小論文navi添削講座「慶応大小論文(論述力試験・論文テスト)」で実際に行われたものです。
慶大小論文[法学部B方式] 05年-1回目
提出して頂いた小論文答案を拝見しました。A様は、表現力に確かなものがある点は評価できるものの、出題意図の把握に失敗してしまっているため、WIEの基準では残念ながら合格圏外の小論文答案です。
05年度の法学部の小論文の特徴は、課題文の難易度が高く、相当慎重に読解しないと、出題意図が正確に把握できない点にあると言えます。答案に盛り込まれた要約を拝見する限り、最重要概念である「共通善」を正確に理解できていません。これが原因で、出題意図と関係がないことを論じてしまっているのです。
それでは、提出された答案に対して具体的な改善コメントを記していきましょう。
■ 小論文答案に書き入れました赤字が改善すべき点です。abc……の記号に対応するコメントは下段に記入してありますのでご参照下さい。記号のない箇所については、単純な誤記や分量調節のためのものです。
────────────────────────────────────────
a 課題文の要約を示しています。最重要概念が「共通善(答案※3)」であり、これに対立する概念が、「暴政(※4)」であることまでは理解できています。ただ、「共通善」と「暴政」の違いを正確におさえていません。小論文答案※2に補いましたが、共通善には、「(政治共同体あるいは集団)全体」という概念を欠かすことができません。※1の「特定の個人や集団」は、政治共同体あるいは集団の「一部」です。暴政と共通善は、共に善を追求するものであり、異なるのは、利益をもたらされる範囲が異なる(=部分と全体)ということなのです。
なお、「特定の個人や集団にとっての善」は、必ずしも「政治共同体全体にとっての善」と反するとは限らないのですが、「特定の個人や集団にとっての善」が追求される結果、「政治共同体全体にとっての善」が損なわれる場合、この「特定の個人や集団にとっての善」を暴政としています。
そうすると、共通善の考え方を利用して「権力と国民」を議論するには、「国民全体の利益」と「一部の国民の利益」が相反する事例を取り上げて、権力者が、「一部の国民の利益」のみを実現して、「国民全体の利益」をもたらしていないことを指摘すればよいことになります(課題文の筆者の主張に同意する場合)。
なお、共通善の考え方に賛同しないのであれば、共通善の考え方自体の欠点を小論文で指摘する必要があります。
さて、課題文の説明だけでは、「共通善」の意味が今一歩分かりにくいかも知れませんね。そこで、課題文で事例として挙げられている「ナチスドイツ」を例として、補足説明しておきます。
ナチスドイツのユダヤ人迫害(=共通善に反する行為)は有名ですが、ナチス党は決してクーデターによって政権を掌握したのではなく、極めて民主的な手続きの代表である「普通選挙」で選ばれました。多くの人が政治に関心を持ったからといって、選挙の結果誕生する政権が、共通善を目指す政治をするとは限らないのです。答案の後半部では、「官僚制」の問題を指摘していますが、課題文によると、普通選挙(=優れたシステム)が導入されたのにもかかわらず、暴政(=ナチスの暴走)が起きたのですから、共通善をシステムだけの問題と考えると合格小論文答案を作成できません。
答案※5で、「一刻一刻の変化は微小であるが為に、その変化に気づき、驚きを感じることが困難」とありますが、システムそのものの変化であれば、それは劇的であり気づきやすい(→例えば、「普通選挙の導入」)のですが、システムの運用の仕方(→ドイツ国民は、選挙制度を通じて権力に何を実現させたいと考えたか、あるいはナチス党が、国民に政治を通じて何をすることを期待させるように仕向けたか)が段々と変化していったからこそ、変化に気づかなかったのです。
課題文では、「ナチス政権下のドイツ人の多くによって、その政治の異常さがまったく意識されなかった」とありますが、異常の本質的な問題は、「共通善」を求めない国民自体にあったと課題文は訴えているのです。当時、ユダヤ人が多くのドイツ人(それだけではなく、多くのヨーロッパ人に)嫌われていたのは事実で(「ベニスの商人」に出てくる金貸しシャイロックはユダヤ人です)、これを利用してナチス党はユダヤ人迫害の政策を行い圧倒的多数の国民から支持されたのです。
国民一人一人が共通善を求めるのではなく、個々人の利益代表を選ぶのであれば、多くの人が政治に関心を持ったとしても、選ばれた人は、「国民の多数という名でも一部の代表(≠政治共同体全体の善を求めない人)」になってしまうのです。ここに、共通善実現の難しさがあります。
b 小論設問文の「権力と国民」に応えようとしている点は評価できます。ただ、システムだけの問題ととらえると、正確に課題文を踏まえた論述になりません。もちろんシステムの問題を取り上げても構わないのですが、併せて、必ず共通善と暴政の関係(=集団全体の利益と、集団の一部の利益の関係)に言及する必要があります。
c 普通選挙を世界で初めて導入したドイツでナチスの暴走が起きたのですから、「官僚」より、「選挙で選ばれる政治家」が優れているとは無条件には言えないことになります。 「官僚」より、「選挙で選ばれる政治家」により権力を持たせるべきとする趣旨で小論文答案を作成することは不可能ではないでしょうが、その場合には、必ず「共通善」の観点から、このことを論証あるいは検証する必要があります。
d 「共通善」の観点を利用して考察していません。課題文の筆者は、ドイツのナチスを例に、システムが優れていても、国民が共通善を志向しない限り、政治はうまく機能しないことを述べているわけですから、このことを踏まえて小論文で論じる必要があります。
※ 課題文では、「政・官・財界の癒着」・「年金制度の危機」・「教育の問題」等が取り上げられています。こうした中から、共通善や暴政の関係を説明する具体例を提示することでも小論文解答は作成できます。例えば、公共工事を巡る談合を例に挙げて論じれば、一部の利益が全体の利益に反していることを説明しやすいと思います。
また、課題文の筆者の主張に同意しないのであれば、共通善の考え方の問題点を筆者の述べる共通善の意味を理解した上で、共通善の考え方自体の問題点を指摘することになります(小論文解答作成は可能ですが、こちらの方針のほうが答案作成は難しい)。
────────────────────────────────────────
上記コメントを参考にして答案を修正し、再提出して下さい。
再提出の小論文答案を心よりお待ちしています。
西早稲田教育研究所
受験小論文講座担当
中島 泰平