WIE小論文navi:慶応大添削コメント例[法学部]06年(5)
このコメントは、WIE小論文navi添削講座「慶応大小論文(論述力試験・論文テスト)」で実際に行われたものです。
大学別小論文(慶大 法B) 06年-1回目
提出して頂いた答案を拝見しました。通信欄によると、提出した小論文に自信がないようですが、初回から合格圏の小論文答案です。
この年の課題文は、一見して平易な文章で書かれているのですが、課題文の筆者の言わんとしていることを正確に理解するのはそれほど容易ではありません。慶應側は大学で学ぶにふさわしい考え方(→「思考の手続き」)を身につけていない受験生を落とすために巧妙な罠を小論文で用意しており、多くの受験生がこの罠にはまっています。
今回提出されたものは、細かい部分についてはまだ修正の余地があるものの、見事に出題意図を踏まえた小論文答案になっています。
それでは、提出された答案に対して具体的な改善コメントを記していきましょう。
■ 答案に書き入れました赤字が改善すべき点です。abc……の記号に対応するコメントは下段に記入してありますのでご参照下さい。記号のない箇所については、単純な誤記や分量調節のためのものです。
────────────────────────────────────────
☆ このままでも間違いとまでは言えないのですが、設問番号は、欄外に書くべきです。この方が、採点者が区別をしやすいですし、また字数の節約にもなります。
a 「問う能力」の重要性が課題文で訴えられている最重要項目です。この点で、提出されたものは、要約としてふさわしいものとなっています。ただし、より細かく課題文を読んでいくと、「問う能力」として、「問題意識」を持つことが必要だとしています。 これを踏まえると、課題文に論評を加える際に、「問題意識があるだけでは駄目で、問題意識を相手にわかる形で伝える能力を養うことが必要だ」と言った論評が可能になります。大筋では、課題文と同じ主張をJ様がするとしても、力点をおいている場所が異なるのですから、どのように異なるのか説明をしたいところなのです。
b 「同様(答案※)」とありますが、どのように同様かを考えると、複数の解釈が可能なため、論述が今一歩曖昧であるといわざるを得ません。次のような解釈が可能です。
①人に問うときにも、遠慮を美(徳)とする日本人の意識が邪魔をする。
②人に問う能力は、自分の意見を相手に伝える能力と似たものである。
まず、①の内容であるならば、「自分の意見を相手に伝えること」は不要な概念となり、小論文答案に盛り込む必要はありません。代わりに「質問と相手を疑うことの区別ができないのが日本文化」といった記述を盛り込めば、「人に問うこと」と「遠慮」の関係は説明しやすくなると思います。
なお、文化によっては、「質問をしないことは失礼」とする考えもあります。欧米人が日本で講演をしたとき、質問がなかったり、あっても少ない場合には、がっくりすることがよくあるそうです。彼らは、「質問がない」=「聴衆にとって興味のない話だった」と解釈します。従って、準備不足で講演に失敗したと思ってしまうのです。逆に、講演を踏まえて質問をすると、めんどくさがるどころか、喜んで質問に答えてくれます。
次に、②の内容であるならば、「人に問う能力」は、「意見を相手に伝える能力」の一部であるといった記述を盛り込めば、わかりやすくなると思います。
c 字数に余裕があれば、どのように理解が深まるのかも説明したいところです。例えば、「メモがあれば、後で相手の言わんとしていたことを確認しやすい」などの記述が考えられますね。
d 複数の質問に共通する「問題意識」を説明しましょう。この説明がないと、「なぜ外国人移住者だけでなく、日本人にも質問する必要があるのか」という疑問が生じます。
e 設問文には、「学術的な聞き取り調査」とあります。「学術的」というのは、調査結果が個人の興味に留まらず、多くの人にとって価値を持つ普遍的に信頼できるデータ、発表する価値のあるデータになるということです。
今回の調査内容は学術的なものと言えるのですが、ここで個人の興味として説明してしまっています。
dのコメントと併せて考えると、多くの人に共通する「問題意識」として説明すればいいことになります。例えば、「異文化との好ましい関係の築き方」あるいは、「日本国内に住む外国人との文化摩擦を防ぐ方法」などを「問題意識」として説明すれば、こうした問題は解決します。なお、「異文化との好ましい関係の築き方」と「日本国内に住む外国人との文化摩擦を防ぐ方法」とを比較した場合、後者の方が問題意識が明確になっていると言えるでしょう。
────────────────────────────────────────
上記コメントを参考にして小論文答案を修正し、再提出して下さい。
【通信欄について】
要約が短すぎたことを気にされていますが、最重要概念(=「問う能力」)をおさえているので、致命的な減点にはなりません。ただ、J様の考えと課題文筆者の考えとの関係を説明するには、「問題意識」等の課題文の概念を小論文に盛り込んでおいた方が好ましかったと言えます。
同一の課題文で、複数の設問に分かれている場合には、設問ごとに独立に採点されるわけではなく、相互に解答が矛盾していないことも評価の対象となります。「パニックになった」とありますが、小論文答案を読む限りは、設問ごとの解答が相互に矛盾しているわけではなく、堂々たる解答になっています。その点では、自信を持って頂いて構いません。
「小論文答案作成時間」についてですが、今回合格小論文答案を作成できたので、これから、作成時間が短くなるように訓練をしていって下さい。試験当日までにはまだ時間がありますので、問題演習の数をこなすようにするといいでしょう。
西早稲田教育研究所
受験小論文講座担当
中島 泰平