WIE小論文navi:慶応大添削コメント例[法学部]07年(4)
このコメントは、WIE小論文navi添削講座「慶応大小論文(論述力試験・論文テスト)」で実際に行われたものです。
大学別小論文(慶大・法) 07年-1回目
慶應法学部の小論文は、課題文の難易度が高いことが多く、この年度の課題文も難しい内容となっています。提出された小論文答案を拝見しましたが、C様は高い読解力をお持ちのようで、前半部の要約は、優れたデキになっています。
しかしながら、答案後半部の論述は、C様の提示した自説と、課題文の重要概念との関係づけに失敗しています。この原因はおそらく、課題文の重要概念(=「歴史主義」等)の意味を正確に理解できていなかったからでしょう。
要約の部分が優れたデキであったため、実際の試験で今回と同様のレベルの答案を書いて合格していた受験生もいたと思われるのですが、後半部分に問題を抱えているため、出題意図を完全に踏まえた答案とは言えず、WIEの基準では、合格圏の小論文に至っていません。
それでは、提出された答案に対して具体的な改善コメントを記していきましょう。
■ 答案に書き入れました赤字が改善すべき点です。abc……の記号に対応するコメントは下段に記入してありますのでご参照下さい。記号のない箇所については、単純な誤記や分量調節のためのものです。
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a 小論文答案前半部に提示している要約は基本的に良くできているのですが、この部分には問題があります。答案を読むと、次のように解釈できてしまいます。
「戦争犯罪の処理という歴史的な国際間の不和」
→戦争犯罪の処理は、歴史的な国際間の不和である。
「(略)不和も、(略)政治正義として考えれば」
→不和であることが、政治の正義であることになってしまいます。
こうした問題を解決するには、例えば次のようにすればいいでしょう。
【修正例】
戦争犯罪の処理をめぐり国際的に争われているのが、学問的歴史の真実ではなく、法的真実をめぐる政治の正義だと考えれば、日本も被害国からの非難に耐えることができるだろう。(82文字)
b この段落から、解答者の見解を述べることになりますが、課題文を踏まえて論じることが要求されているため、課題文の重要概念を課題文とは異なる意味で用いることは許されません。この段落の要旨は、「今の世界は歴史を中心に動いているから、歴史主義を捨てるべきではない。」となりますが、課題文を踏まえると、「歴史主義を捨てること」と、「歴史を無視すること」は異なるので、課題文に反論したことにはなっていません。
課題文の述べる「歴史主義」は、「歴史の真実をいつまでも追究し続ける姿勢」を指します。これは、課題文で、「歴史的真実」と「学問的真実」を同じ意味で使っていることからわかると思います。
また、課題文の第一段落では、対立する両者が歴史主義を主張した場合に、問題が解決せずこじれてしまうことを説明する文章が書かれています。
(中略)国家史、民族史が書かれた主要な動機が復権の要求であり、失われたものへの記憶であった以上、この対立の解消は容易ではない。当然ながら、被害を強く記憶する国家や民族ほど、国家史、民族史の観念に固執し、それを捨てることを新たな権利喪失と感じるであろう。歴史を個人の認識に返すという非政治的な試み(注:総理大臣が私人として靖国神社に参拝することなどを指す)が、こうした国家や民族の人々にとっては、それ自体が政治的な企てに見えるだろう。この拙考そのものが中国や韓国の人々には詭弁に見え、加害者たる日本人の責任回避として映ることは、十分に理解できるのである。
もちろん、必ずしも筆者の主張に同意する必要はないのですが、筆者が「歴史主義」をどのような意味で使っているのかは正確におさえておく必要があります。
c bの部分で述べたように、歴史主義の放棄は、歴史の真実をいつまでも追究することはしないという意味であり、歴史(=過去に一度真実だと認定されたこと)の無視ではありません。従って、これは課題文の主張に対する反論ではなく、課題文と関係ない議論になってしまいます。
d 「相続法」の考えに従えば、相続した場合に、財産も負債も相続します。また、相続法では、相続の放棄も認められているのですが、この場合は負債を相続しないのと同時に、財産も放棄することになっています。ここで言う「財産」は、東京裁判の司法取引で得た利益です。相続法の考えに従うのであれば、日本は、東京裁判の判決を必ずしも受け入れる必要はなかったのですが、この場合には、「財産」、つまり、「天皇制の保持、占領軍による直接統治の回避、日本通貨の維持、また戦後の日本の独立の継続と回復等」は放棄しなければなりません。課題文によると、東京裁判を日本が受け入れて「財産」を手に入れた以上、「負債(=戦争に負けたことを認めることなど)」を相続するのは致し方ないと主張しているわけです。
以上のことより、負債の部分にだけ注目して、相続法の考えの問題を述べるだけでは、筆者の主張を正確に理解しておらず、反論としての説得力は乏しいものとなります。
e この段落の要旨は、答案※部分にあるように、「歴史的事実に屈するべきではない」となりますが、これは課題文の主張とどのような関係にあるのでしょうか。
課題文では、国際間の軋轢の解決法として、二つの考えを提示しています。
①法的真実を追究することで実現される政治的正義
②歴史的真実を学問的に追究する歴史主義
課題文の筆者は、①の考え方を支持し、②の考えは問題をこじらせるだけであると主張しています。これを踏まえて論じるには、国際間の軋轢の解決法としてどのような方法が適切なのか、①及び②の考え方に対する賛否を示す必要があります。①と②の両方に賛成することは難しいので、小論文答案作成方針は次の三つのうちどれかになるでしょう。
Ⅰ①に賛成し、②に反対する(筆者に同意)
Ⅱ①に反対し、②に賛成する
Ⅲ①②ともに反対し、他の国際間の軋轢解決法を提示
いずれにしても、国際間に軋轢を生じている問題を事例として提示し、それを解決するには、小論文解答者の提示する国際間の軋轢解決法が優れていること説明することになるでしょう。
現在の小論文答案の主張「=歴史的事実に屈するべきではない」は、国内だけであれば通用する議論かも知れませんが、国際間の軋轢の解決に繋がることを示していないので、課題文を踏まえた主張とは言えません。
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上記コメントを参考にして小論文答案を修正し、再提出して下さい。
西早稲田教育研究所
受験小論文講座担当
中島 泰平