WIE小論文navi:慶応大添削コメント例[経済学部]05年(2)

このコメントは、WIE小論文navi添削講座「慶応大小論文(論述力試験・論文テスト)」で実際に行われたものです。


大学別小論文(慶大 経済) 05年-1回目

  お送りいただいた小論文答案は、誤字脱字や主語述語の不適応といった問題は少なく、解答者の国語力は十分だと申せます。また設問の要求、課題文の内容も正確に把握しておられます。いくつかの小問に関しては、初回提出から合格小論文答案といえるものもありました。
  しかし、この講座は模擬試験ではなく、あくまでも論理的思考力を身に付け、確実に合格できる実力を養成していただくためのものです。さらに水準の高い小論文答案を目指して、演習して参りましょう。

  ここで、慶應経済の出題傾向について簡単に述べておきましょう。出題年度によって多少の変化はありますが、例年2つから3つの小問に分かれていることが特徴です。課題文はさほど難解ではありませんが、それだけに各小問の要求を的確に読み取りませんと、大きな失敗をすることになります。また、設問の要求に従って、課題文から重要概念およびその相互関係を抽出するのか、あるいは課題文を参考にして、解答者独自の概念を用意するのか、正確に判断する必要があります。したがって、課題文や資料を正しく読み取るための前提として、設問文を慎重に読むことが要求されます。
  以下小問ごとに検討して参りましょう。

  答案に対するコメントは、小問ごとに解説の後にまとめてあります。abc……の記号は、小論文答案のものと対応しています。なお、特にコメントのない修正は、単純な語句の誤りや、分量調整のためのものです。

問1.
  お気づきのように、この設問は小論文解答者(=I様)の見解を要求していません。「課題文全体に注意」して、課題文の挙げている「理由」を説明すればよいのです。したがって、課題文の中から、「インターネット」と「公共的な議論の場」に関係の深い重要概念を抜き出し、その相互関係(=論旨)を再現すればよいといえます。ただ、単なる抜粋(抜き書き)と異なりますのは、課題文の印象的な部分を小論文答案に書き写すのではなく、あくまでも重要概念とその相互関係を正確に反映していなければなりません。
  今回の小論文答案では、この設問の要求は理解しておいでです。ただ、いくつか見落としている重要概念があります。設問の要求そのものを誤解している小論文答案が多い中では、現在のものでも合格していた可能性はありますが、再提出ではこの点を改善していただきたいと思います。

a 誤りというわけではありませんが、小論文答案の中で設問の要求を繰り返す必要はありません。現在は制限字数を残しておいでですが、deの改善で字数が増えると思いますので、この部分で調整しましょう。
b 課題文にこれと対応する記述がありますので、減点にはなりません。ただ、これは「普及」を示すための具体例であって、課題文の重要概念ではありません。ここもまた、deの改善の方が優先します。字数に余裕があれば残しても構いませんが、割愛することになるでしょう。
c 現在の記述でも減点にはなりませんが、ほぼ同じ概念の関係をより短く書くことが可能です。
   小論文を書き慣れないうちは、課題文の内容把握であれ、解答者の見解であれ、書くことが見つからない=分量不足の問題が深刻です。しかし、小論文を書く力が向上してきますと、今度は「書きたいことの過剰」に悩まされることになります。初回提出から合格圏の小論文答案を書けるI様はすでにこの段階だと思います。
   この対策は、基本的には構想のメモの段階で、盛り込むべき重要概念の優先順位を考えることです。しかし、文章の技術として「短く書く」能力もありますと、取り上げている概念が豊富で、かつその関係付けが精密な文章が可能になります。いわゆる深い考察を示すことになりますね。
   ここもまた、字数に余裕があれば現在のままでも構いませんが、短く書く例を示してみました。
d この部分で、見落とした概念を補うようにしましょう。まず、bの分量調節をしますと、「インターネット」の普及を示す概念がなくなってしまいます。このため、「生活必需品」といった概念を補うとよいでしょう。ただし、これはbの部分を残すのであれば、なくてもよいことになります。
   より重要な概念は、インターネット上の送信・受信に関係するものです。送信の側で言えば、「自らの知識や経験」「(自説などを)発表する」などが重要概念でしょう。また、受信の側面では、「(情報を)主体的に選択できる」といった概念が用いられています。これは、インターネット上での情報交換の質に関わる概念です。この全てを小論文答案に盛り込む必要はありませんが、情報の質や内容に関わる概念の関係を答案で再現することが、合格小論文答案の条件になります。
e d同様、ここも合否に関わるような重要概念が見落とされています。具体的には、「率直な議論」です。これこそ「公共的な議論」という設問文の重要概念に対応しますね。

  以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。

問2.
  「説明」という設問の要求は問1と似ていますが、課題文には「デジタル・デバイド」に関する記述はありません。また設問文も、課題文からの読みとりは要求していませんので、小論文解答者の知識から設問の要求にそった事例を挙げることになります。ただ、あくまでも問題点が指摘できていればよく、解決策などがなくても構わないことになります。
  現在の小論文答案では、デジタル・デバイドの例を挙げており、いずれも適切なものです。したがって、ギリギリですが合格圏の小論文と申せます。
  ただ、概念の関係=論旨の構成に不適切な箇所がありました。具体的には、小論文答案の問題箇所でコメントいたします。

a 誤字などの国語表現上の問題点に関する減点は比較的軽微ですが、概念の関係=論旨にまで影響するものは、論旨不整合と判断され、大きな減点に繋がります。ここでは、「それは」が何を指すのか、また「技術面であったり」の主語述語の対応が不明確です。
   まだ字数に余裕がありますので、高齢者=操作方法を学習するのが困難、障害者=キーボードなどが障害を考慮したデザインになっていない、といった指摘をするべきです。
   問1.cのコメントとは逆に、短く表現したために、概念の関係=論旨が混乱しているのです。
b aの改善にもよりますが、ここはこうすれば簡単に概念の関係=論旨が明確になりますね。
c 「知的エリート」という概念が出てきますが、概念の関係=論旨が整合しません。
   ここまで、デジタル・デバイドの例として指摘された*印の概念は、いずれも「知性」と直接関係はありません。高齢者・障害者・貧困層(=高価すぎて買えない)の中にも、平均以上に知的な人材は存在するでしょう。
   あるいは、ここは貧困層の問題だけに限定しているのかもしれません。その場合には、富裕層だけがインターネットを独占し、知的な見解を持っていても貧困層は議論に参加できないことが問題なのでしょう。つまり、経済的格差によって政治参加を阻害される=知的エリートになれないといったことは民主主義の原則に反しますね。
   同様にして、年齢(=高齢)や障害の有無による格差が問題になっているのでしょう。したがって、知的かどうかによる格差の問題として取り扱うのは、ここまでの論旨と整合しないことになります。

  以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。

問3.
  問2.同様、小論文解答者の方で事例を用意する必要があります。こちらも、長所として「意見が述べられる」、「問題」として「誹謗中傷」という「具体的な例」が挙げられています。
  しかし、ここでも概念の関係付けがやや不適切でした。また長所と問題の具体性に大きな差があることも減点の対象になるでしょう。このため、ギリギリ合格圏という評価になります。
  まだ制限字数に若干の余裕がありますので、これを利用して改善を考えましょう。

a 上司に対して自分の意見が言いにくい状況は、インターネットが普及しても改善されないでしょう。確かにネット上で上司に対する批判や、上司とは異なる見解を述べることがあっても、それは「上司に対する」意見表明ではないですね。また、上司に対するものではないなら、同僚や部下に対して自分の意見を述べることは、ネット普及以前から行われていました。
   むしろ、ここで問題になるのは「自分の意見」一般というよりは、会社(より広くは官公庁なども含む組織)の不正を暴く「内部告発」などの問題でしょう。
   例えば、自分の所属する企業の不正行為を公表した人が、企業を解雇される、遠隔地に移動させられる、給与などの待遇を引き下げられる、といった扱いを受けることがあります。このような「会社(の内部告発)」の場合には、「匿名性」は非常に有効ですね。必ずしも「内部告発」でなくても構いませんが、より適切な「具体例」を考えてください。
b 「問題」についても、aと同様の「具体」性が必要でしょう。「誹謗中傷」の事例をより具体的に書いてください。なお、誹謗中傷以外にも、自殺の仲間を募集する、あるいは自殺方法を細かく紹介する、といったサイトがありましたね。また、殺人などの犯罪依頼を引き受けるサイトや、犯罪の共犯を募集するサイトが問題になったこともあります。
   もちろん、これは制限字数の許す範囲で結構です。
c 取消線をしましたが、この記述自体が誤りというわけでありません。ただ、abの改善によって字数が増えるようなら、この部分で調整してください。

  以上のコメントを参考にして、再提出してください。

西早稲田教育研究所
大学別小論文講座
担当  西田 京一


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