WIE小論文navi:慶応大添削コメント例[経済学部]05年(3)
このコメントは、WIE小論文navi添削講座「慶応大小論文(論述力試験・論文テスト)」で実際に行われたものです。
大学別小論文(慶大 経済) 05年-2回目
まず、通信欄でいただいたご質問からお答えいたします。
『小論文標準テキスト』にも書きましたように、最初の段階では、制限時間にとらわれず、じっくり課題に取り組むようにしてください。実際、めでたく慶應をはじめとする難関大学に合格された方も、最初は小論文を1問解くのに丸1日かった、あるいは3日間同じ問題を考えてようやく小論文が書けた、という方が沢山おいでです。逆に、私どもの指摘を無視して、制限時間以内に書けた部分だけ提出する、といった取り組み方をされた方は、なかなか力が伸びず、実際の試験で苦戦された方が多いのです。結局、小論文を書く力とは、論理的思考力に他なりません。この力を養うためには、設問の要求・課題文の内容を正確に把握し、それに基づいて小論文解答者の考えをまとめていく練習が不可欠です。逆に、この論理的思考力が身に付いてきますと、答案を作成する時間は短くなります。
とは申しましても、試験が近づいて参りますと、制限時間が気になると思います。実際の試験場では、適度の緊張感のため、皆さんこの講座の演習中より小論文作成に用する時間は短くなるようです。自宅で演習する際には、制限時間の5割増し程度に収まっていれば、まず心配はありません。
まだ1つ目の課題に挑戦されている段階で、制限時間の1.5倍程度で答案が書けるのでしたら、むしろ速い方だと申せます。
さて、前回は合格圏とは言えない部分もありましたが、今回は全ての小問に対して、合格小論文答案と申せます。ただ、致命的な減点になる箇所ではありませんが、いくつか改善の余地があります。ご質問のところで申し上げましたように、制限時間に関しては、現時点では問題ありませんので、次回以降は、今回指摘しました細かい点に注意するようにしてください。
では、以下小問ごとに検討して参りましょう。
記号の使い方などは、前回と同じです。
問1.
前回見落としておられた課題文の重要概念を盛り込んでいただきましたので、今回は合格圏の小論文と申せます。ただ、いくつか概念の関係付け=論旨の構成に不適切な点があり、改善の余地があります。いずれも、課題文の誤読というよりは、国語表現上の細かい問題だと思われます。ただ、前回も問2.aでコメントしましたように、国語表現のミスが全体の論旨=概念の関係に影響しますと、大きく減点されます。これを避けるためには、小論文答案を書く際、1ブロック(段落)書くごとに、見直しをするといった方法が有効です。
今回は、私ならこうするといった文例を示しますので、次回以降の参考にしてください。
a bと関係しますが、1文が余り長いと概念の関係=論旨が読み取りにくくなります。ここも、「インターネット」を主語にして、独立の1文にした方がよいと思います。
b 接続の言葉(文法上の接続詞に限りません)の使用には注意が必要です。「また」は、前文と後文が併置の形になる場合ですね。現在の小論文答案では、前文の内容(=普及)が、後文(低価格・迅速・容易)の原因ないし前提になっています。したがって、ここでは独立の概念(ないしその相互関係)を別途指摘する関係ではありませんので、「また」を使用するのは不適切です。むしろ、接続の言葉がなくても、叙述の順番だけで十分理解できる関係でしょう。
接続の言葉が不適切ですと、概念の関係を大きく混乱させることがありますので、注意してください。
c 「~からである」というのは、ある事態・判断などに対する理由・原因を述べる場合に用いますが、ここは「ある事態」が不明確です。設問文が「理由」を要求しているので、それに対応させたのだと思います。しかし、このように、小論文答案内部の概念の関係付け=論旨の構成を混乱させるもとになります。
設問の要求する「理由」を答える場合には、「~だから(である)」といった表現をする必要はなく、特に解答が長文になる場合には、避ける方がよいと思います。
d bcの改善によって、字数に余裕ができましたので、より忠実に課題文の概念およびその相互関係を答案に盛り込んでみました。
現在のままでも減点にはなりませんが、課題文の重要概念とその相互関係(論旨)は、できるだけ加工しない方が、誤読を避ける上では有効です。
e 枠囲みをした部分は、課題文では*の位置にで取り扱われています。現在のままでも、課題文の論旨と齟齬はありませんので、大きな減点にはなりません。ただ、dと同じ発想ですが、課題文の論旨が特に複雑でなければ、概念を取り扱う順番も、できるだけ課題文通りにする方が、失敗が少なくなると思います。
問2.
前回改善をお願いしました概念の関係付け=論旨の構成の問題は大分解決しました。ただ、問1.同様、国語表現レベルで改善の余地が残っています。なお、この改善に伴って、あるいはN様のお考えとは若干異なる論旨になった箇所もあります。いずれにせよ、大きな減点になる箇所ではありませんが、ここも文例を挙げますので、改善前と読み比べてみてください。
a 「その他」が、何を指すのかやや曖昧です。「その」は、おそらく、操作技術の学習困難(高齢者)・操作方法の難しさ(障害者)を指しているのだと思います。ただ、ここで前2者(高齢者・障害者)は、ソフトを含むコンピュータの「操作」の問題と考えることができます。それに対して、言語(「英語」)の問題は、技術解説書が英語なので理解できない、といった「操作」の問題にも関係しますが、むしろネット上の情報が読み取れないという内容理解の方が重要でしょう。しかも、英語学習の機会が与えられているかどうかは、年齢(高齢者)・身体条件(障害者)・経済条件(貧困)とは別です。文化的な環境、あるいは教育政策との関係が深いですね。心身に障害がなく、経済的に豊かな若者でも、英語教育の機会を与えられなければ、十分にインターネットを使いこなすことはできない、と考えられます。
そうしますと、この改善には、国語表現の整理に止まらず、内容的な改善になると思います。「英語」の問題は、高齢者や障害者固有の問題ではなく、年齢(高齢者)・身体条件(障害者)などと同格の、一段高い問題とすべきです。
その際、英語が「世界」に普及しているかどうかより、「インターネット」との関係が重要になると思います。
b aの冒頭に「また」という接続の言葉を使用しましたので、同じ言葉の重複を避けました。
c 同じ「発展途上国」の問題ではありますが、「人々」(個人)のレベルと「政府」(社会全体)との関係がやや未整理です。
ここでは、高校で学習する範囲から、もう少し政府の役割を正確に示す方向で示しました。特に、情報網といったソフト開発・導入を含む問題以前に、そもそも電話回線の未整備といったハード面(インフラストラクチャー)の立ち後れが深刻です。ここでは、これを(ケーブルテレビなども含む)通信回線という概念で表しました。
d bと関連して、「英語教育」の独立の問題と指摘しました。
問3.
ここも、初回提出小論文より改善された内容になっています。ただ、高校段階での基礎知識に問題があり、さらに改善の余地があります。
「小論文は知識を問わない」とよく言われますが、それでも大学受験資格=高校卒業程度の知識を持っていることが前提になります。解答者が取り上げている「内部告発」「公権力」といった概念は、高等学校の公民科、特に「政治・経済」ないし「現代社会」で必ず取り上げる問題です。これに対する誤解は、減点の対象になります。
a *部分で「企業」という概念を使用していますが、官庁・教育機関などにも「内部告発」はあり得ます。その一方で、公共性のない個人のプライヴァシーに関わる問題をみだりに「告発」するのは、端的に人権侵害になります。
この間の事象を正確に表すためには、「組織」などの概念を用い、その1例として*の企業を挙げる、という形にするとよいでしょう。
b 設問文は「具体的な例」を要求していますので、推測・仮想の事例を挙げるのは厳密には不適切となります。また、実際にここで挙げているような事例が存在し、裁判でその当否が争われたことも少なくありません。
c 「公権力」とは、公の政治組織である国家や地方公共団体(自治体)だけが持ちうるものであって、私企業が持つことはあり得ません。だからこそ「公」権力なのでしょう。
そうしますと「(私)企業」が「公権力」を行使するという問題ではなく、公権力それ自体の問題点を指摘する必要があります。私は「行政」(=公権力行使の主体)と「プライヴァシー」を問題にしましたが、他のものでも構いません。
以上です。
西早稲田教育研究所
大学別小論文講座
担当 西田 京一