WIE小論文navi:慶応大添削コメント例[経済学部]05年(4)
このコメントは、WIE小論文navi添削講座「慶応大小論文(論述力試験・論文テスト)」で実際に行われたものです。
大学別小論文(慶大・経済A・B) 05年-1回目
今回が初めての提出になりますので、慶應経済の小論文出題傾向について簡単に述べておきましょう。出題年度によって多少の変化はありますが、例年2つから3つの小問に分かれていることが特徴です。課題文はさほど難解ではありませんが、それだけに各小問の要求を的確に読み取りませんと、大きな失敗をすることになります。設問の要求に従って、課題文から重要概念およびその相互関係を抽出するのか、あるいは課題文を参考にして、小論文解答者独自の概念を用意するのか、正確に判断する必要があります。したがって、課題文や資料を正しく読み取るための前提として、設問文を慎重に読むことが要求されます。
全般的に大きな問題はありませんので、以下小問ごとに検討して参りましょう。
お送りいただいた小論文答案は、誤字脱字や主語述語の不適応といった問題は少なく、解答者の国語力は十分だと申せます。また設問の要求、課題文の内容もほぼ正確に把握しておられますので、一部の小問に関しては、初回提出から合格小論文答案と申せます。
ただ、設問の要求を十分に理解していない答案があります。これらはいずれも大きく減点されることになります。これを改善することを通して、設問の要求にどのように対処するかを学習していただきたいと思います。
答案に対するコメントは、小問ごとに解説の後にまとめてあります。abc……の記号は、小論文答案のものと対応しています。なお、特にコメントのない修正は、単純な語句の誤りや、分量調整のためのものです。
問1.
お気づきのように、この設問は小論文解答者(=D様)の見解を要求していません。「課題文全体に注意」して、課題文の挙げている「理由」を説明すればよいのです。したがって、課題文の中から、「インターネット」と「公共的な議論の場」に関係の深い重要概念を抜き出し、その相互関係(=論旨)を再現すればよいといえます。ただ、単なる抜粋(抜き書き)と異なりますのは、課題文の印象的な部分を答案に書き写すのではなく、あくまでも重要概念とその相互関係を正確に反映していなければなりません。
今回の小論文答案は、この設問の要求は正確に理解しておいでですし、最重要概念およびその相互関係の抽出に成功していますので、初回提出から合格小論文答案と申せます。ただ、第二義的に重要な概念の中には、答案に盛り込まれていないものがあります。再提出では、その点を改善するようにしてください。
a 課題文の第1段落では、「インターネット」の「普及」に関して述べています。この「普及」は、「公共」性の重要な前提になるでしょう。また、この普及を可能にした要因として、「低コスト」「容易」「迅速」といった概念を課題文では使用しています。
これらは、最重要概念とは言えませんが、第二義的には重要です。制限字数の許す範囲で、小論文答案に盛り込むようにしてください。
b aと同様の問題ですが、課題文の第2・3段落では、「受信」「発信」の内容に関する重要概念があります。「発信」に関しては、「知識や経験」「自説」、「受信」に関しては「主体的に選択」といった概念が用いられていますね。これらも、第2義的に重要な概念と言えます。
abで指摘した概念を全て小論文答案に盛り込むことは、分量的に難しいかもしれませんが、課題文の論旨=概念の関係をできるだけ正確に反映するよう、検討してください。
c 『小論文標準テキスト』にも書きましたように、小論文に限らず、およそ小論文においては、資料その他「他者の見解」と、「論文筆者の見解」が明確に区別されていなければなりません。これらは、いずれも課題文の見解であることを示すものですね。
しかし、この設問では、「課題文」の「主張」(だけ)を書くことになりますので、基本的に「課題文」以外の見解があり得ません。このような記述があっても、それ自体が減点の対象にはなりませんが、不要だといえます。abの改善で字数が増えますの、その調整のために割愛しましょう。
d 現在の記述でも減点にはなりませんが、ほぼ同じ概念の関係をより短く書くことが可能です。
小論文を書き慣れないうちは、課題文の内容把握であれ、解答者の見解であれ、書くことが見つからない=分量不足の問題が深刻です。しかし、小論文を書く力が向上してきますと、今度は「書きたいことの過剰」に悩まされることになります。初回提出から合格小論文答案を書けるD様は既にこの段階だと思われます。
この対策は、基本的には構想のメモの段階で、盛り込むべき重要概念の優先順位を考えることです。しかし、文章の技術として「短く書く」能力もありますと、取り上げている概念が豊富で、かつその関係付けが精密な文章が可能になります。いわゆる深い考察を示すことになりますね。
今回もabなどでより多く課題文の重要概念(論点)を小論文答案に盛り込むことができるでしょう。
以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。
問2.
「説明」という設問の要求は問1と似ていますが、課題文には「デジタル・デバイド」に関する記述はありません。また設問文も、課題文からの読みとりは要求していませんので、解答者の知識から設問の要求にそった事例を挙げることになります。ただ、あくまでも問題点が指摘できていればよく、解決策などがなくても構わないことになります。
現在の小論文答案では、まず「(課題文のいう)望ましい方向」がやや不適切です。また、南北間の格差を事例として挙げていますが、これは「デバイド」一般としてはともかく、「デジタル」以外、あるいはそれ以前の問題の方が重要になっています。したがって、設問の要求する「デジタル・デバイド」の例としては不十分ということになります。
ここは、設問の要求する「望ましい方向」および「デジタル・デバイド」を再検討することになります。
a 課題文の内容および問1の解答から、設問文にある「望ましい方向」とは、まず「公(的な議論の場)の形成」と考えるべきでしょう。現在は、*などの概念が使用されていますが、これでは不十分です。むしろ、**の「公共的議論」に限定する方が適切でしょう。
なお、「望ましい方向」をより具体的な問題に絞ることで、この部分は短くなると思います。
b これは、「デバイド」の1つとして挙げられていますが、教育制度の不備や出版・言論統制など、「デジタル」とは言えない要因によっても十分に起こりえます。
c b同様、港湾施設・陸上交通網なども「インフラ」に含まれますので、やはり「デジタル」とは言えません。
ただ、この指摘だけでは「デジタル・デバイド」として何が適当か思いつかないかもしれませんね。そこで、いくつかヒントを出しておきましょう。D様が今回取り上げた南北問題で考えるなら、貧困に起因するものがいくつか考えられます。個人レベルの問題としては、端末(コンピュータ)を買うだけの経済力がなく、インターネットに参加できない、あるいは、コンピュータの操作を学習する機会がない、といったことが、「デジタル・デバイド」に当たるでしょう。また、国家・社会レベルでは、インフラストラクチャーの中でも、通信回線や電力供給網が未整備であれば、コンピュータが使えない、あるいはインターネットに接続できない、といった問題が考えられます。また、これも広義のインフラに属するかもしれないものとして、学校制度が未整備で、国民の就学率が低い状況では、インターネットの操作技術を教える施設や機関が不足している、といったことも挙げられるでしょう。
d aと関連して、「望ましい方向」に対する「障害」も変わってくると思います。
現代社会では、民主主義の原則が守られるべきです。そこでは、個人の経済事情等によって差別が行われてはなりません。しかし、cで挙げたような事情によって「公共(的な議論の場)」に参加できない人がいるとしたら、どうでしょう。経済的に豊かな人だけが、「公共」の形成に参加でき、貧しい人たちがそこから排除されることは、「望ましい方向」とは言えませんね。
もちろん、ここで紹介した以外にも「デジタル・デバイド」および「障害」を挙げることは可能でしょう。例えば、一般に高齢者は、コンピュータなどの操作が苦手ですから、年齢による「デジタル・デバイド」が考えられます。また、インターネットでは英語が多用されますので、英語圏の出身者とそれ以外の間にも、有利・不利の差が生じるでしょう。このような文化の差による「デジタル・デバイド」も指摘できると思います。
年齢・文化によって「公共」への参加が制限されることは、やはり「望ましい方向」ではありませんね。
以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。
問3.
問2.同様、小論文解答者の方で事例を用意する必要があります。しかも「「具体的な例」が要求されていますね。ここで「具体的」とは、どの程度の事例を要求しているのでしょうか。多少受験テクニック的な解説になりますが、この基準になるのは、課題文です。課題文と同程度あるいはそれ以上の具体性がなければなりません。
今回の小論文答案は、残念ながら課題文に比べて具体性が高いとは申せません。したがって、議論の次元を誤っており、設問の要求に応えていません。「具体的な例」の選定から全面的に再検討が必要です。
a 「長所」に当たる記述ですが、課題文と同程度ですので、設問の要求に応えていません。
では、「具体的な例」として、どのようなものが考えられるでしょうか。私(西田)の思いつくものを挙げてみましょう。
例えば、企業や官庁の職員が、所属先に不利な情報を公表したために解雇される、あるいは、遠隔地に移動させられたり、給与などの待遇を引き下げられる、といった扱いを受けることがあります。「匿名性」によって、このような問題を防ぐことができるでしょう。このような「組織(の内部告発)」における「身分や地位」の問題などが、「具体的な例」に当たると思います。
b こちらでは、「短所」を挙げる箇所ですね。*の部分は、確かに「短所」でしょうが、やはり設問の要求する「具体的な例」とは言えません。
ここでも私ならこうする、といった例を挙げてみましょう。
aで挙げた事例でいえば、「匿名性」を利用して、事実を十分に確認しない、無責任な告発が行われる可能性が生じるでしょう。さらに悪意を伴う誹謗・中傷も行いやすくなりますね。
また内部告発以外でも、インターネット上に自殺や犯罪を促すサイトが存在し、大きな社会問題になったこともありますね。自殺の仲間を募集する、あるいは自殺方法を細かく紹介する、といったサイトがありました。また、殺人などの犯罪依頼を引き受けるサイトや、犯罪の共犯を募集するサイトが現在問題になっています。
もちろん、これは制限字数の許す範囲で結構ですが、課題文より具体性の高い事例を挙げるようにしてください。
以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。
西早稲田教育研究所
大学別小論文講座
担当 西田 京一