WIE小論文navi:慶応大添削コメント例[経済学部]06年(1)
このコメントは、WIE小論文navi添削講座「慶応大小論文(論述力試験・論文テスト)」で実際に行われたものです。
大学別小論文(慶大 経済) 06年-1回目
年末年始休業がありましたために、ご返却が遅くなりました。同時に2年分の小論文答案を提出していただきましたが、出題年度の古い方から拝見いたします。
ここで、慶應経済の小論文出題傾向について簡単に述べておきましょう。出題年度によって多少の変化はありますが、例年2つから3つの小問に分かれていることが特徴です。課題文はさほど難解ではありませんが、それだけに各小問の要求を的確に読み取りませんと、大きな失敗をすることになります。また、設問の要求に従って、課題文から重要概念およびその相互関係を抽出するのか、あるいは課題文を参考にして、解答者独自の概念を用意するのか、正確に判断する必要があります。したがって、課題文や資料を正しく読み取るための前提として、設問文を慎重に読むことが要求されます。
まだ05年の小論文には挑戦しておられないようですが、テキストをご覧いただきますとお気付きのように、06年の出題は、05年までと比べて、小問数や字数が変わっています。04・05年の小論文出題では、ほぼ同じ字数を書かなければいけない3つの小問から構成されていました。したがって、各小問の設問文をよく読み、それぞれの小問に対して何を書かなければいけないかを把握しませんと、大きく失敗する可能性があります。実際、他の小問で解答すべきことを書いてしまう受講生することが少なくありません。しかし、今回は①と②では制限字数が大きく異なり、その危険性は05年よりは低くなっています。また、設問文が長い=小論文設問の要求が詳細になっていますが、これは、答案で書かなければならないことが明確に指示されている、ということでもあります。
以下では、小問ごとに検討して参ります。
答案に対するコメントは、小問ごとに解説の後にまとめてあります。abc……の記号は、答案のものと対応しています。なお、特にコメントのない修正は、単純な語句の誤りや、分量調整のためのものです。
①
この小問では、解答者の見解が求められています。したがって解答者の方で、重要概念(論点)の設定とそれに対する関係付け=論旨の構成をしなければなりません。
この点は正しく理解しておられるようですが、設問文の重要概念を見落としているために、合格圏とは申せません。少し厳しい言い方になりますが、『小論文標準テキスト』にも書きましたように、設問の要求に応えていない答案は、解答ではない=0点と判断される可能性が高いのです。
これを解決するには、小論文答案の最重要概念(=論点)の設定から再検討が必要になります。全面的な書き直しになると思われますので、具体的な改善案ではなく、問題点の指摘と改善の方向をヒントの形で示す箇所が多くなります。
a この概念が課題文の中でどのような関係=論旨にあるかを正確に把握していなかったことが、今回の最大の問題点です。
この概念は「細分化保険」の説明の中で、細分化の基準の具体例として用いられています。しかし、「行動様式」と「遺伝情報」あるいは「遺伝子診断」との関係付けは課題文に存在しません。
この関係をおおざっぱに図にしてみましょう。
「遺伝情報」「遺伝子診断」→「細分化保険」に利用可能
∥
「行動様式」「(個体の)特性」
このように整理しますと、①「遺伝情報」「遺伝子診断」と、「行動様式」との因果関係は課題文には存在しないことが分かると思います。したがってこの因果関係を論証しない限り、「行動様式」による「細分化保険」について論じても、小論文設問の要求する「遺伝情報が明らかになることから生ずる問題」を論じたことにはなりません。
「細分化保険」の基準になる事象が正確かどうかについて議論しても、それだけでは設問の要求に応えたことにはならないのです。
したがって、「行動様式」をこの最重要概念(論点)とするのであれば、これと「遺伝情報」との因果関係を解答者自身が論証する必要があります。
しかし、喫煙や食生活などは、その人が所属する家庭や文化圏などの後天的な環境によって決定される部分の方が大きいでしょう。また、禁煙・禁酒など本人の意志によっても、「行動様式」は変更可能です。そうしますと、「遺伝情報」とは無関係に、本人の「行動様式」を調査しなければ「細分化保険」は設定できないでしょう。
①以外の方針としては、②課題文から別の問題を選定することです。
例えば、「遺伝子チェック」による「中絶」の問題があります。課題文では、「両親」の側から議論されていますが、診断される子供(胎児・新生児)の側から見たらどうでしょう。彼らの意志は全く考慮されずに、「中絶」が行われることになります。もちろん、出産によって母親の生命が脅かされるなどの場合であれば、親の生命保護のために中絶はやむをえないかもしれません。しかし、出産そのものは正常で母体の側に問題がないにも拘わらず、遺伝疾患の可能性だけで、胎児の生命を奪ってよいのでしょうか。あるいは、遺伝情報が流出することで、就職差別などが行われる可能性もあります。他の社員より早く病気によって退職する可能性がある人は、企業としては採用したくないでしょう。しかし、本人の努力では克服不能というだけで就職機会を奪われるとしたら、これは人権侵害になると思われます。
この他にも「遺伝情報が明らかになることで生ずる問題」は考えられると思います。いずれにせよ、現在の論点を変更して、小論文設問の要求に沿った概念を選定するようにしてください。
b aで指摘しましたように、これらは課題文では「遺伝情報が明らかになることで生ずる問題」とは言えません。
①の方針に沿って「遺伝」によって生じる問題であることを論証するか、②の方針で新たに概念(論点)を探す必要があります。いずれにしても、*の段落全体は全面的に書き改めることになるでしょう。
c マス目のある原稿用紙で、行頭のマスに句読点(。、)や閉じ括弧(」や』)だけが入るということはありません。その場合には前の文字と2文字一緒にして、前行の最後の1マスに書いてしまいます。
このような原稿用紙の使い方につきましては、WIEのホームページから無料でご覧になれる、『WIE小論文公開講座』の第1回「ともかく書いてみよう」で少し詳しく説明していますので、ご参照ください(http://www.wie.co.jp/syo/kokai/index.htm)。
d 大きく取消線をしましたが、abの改善によって、論点そのものが変更になるか、少なくともその位置づけが大きく変わると思います。この「対策」のそれと対応して、全面的に再検討してください。
以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。
②
設問文は、①の「要約」を求めています。要約とは、対象となる文の重要概念とその相互関係を短く再現することに他なりません。制限字数が僅か40字ですから、よほど重要概念を絞り込みませんと、失敗することになります。
現在の小論文答案では、①から重要概念を抽出し、その関係=論旨の再現に成功しています。ただ、①で重要概念が変更になりますと、この部分にも手を入れる必要が生じます。
a 短い文の場合には迷うかもしれませんが、マス目のある原稿用紙に書く場合には、「語」ではなく文であれば、最初の1マスを空けるのが原則です。
b 「適当」の原義からいえば誤りではないのですが、「適当」「いい加減」などは、現在では、十分吟味されていない・不十分な、といった意味で使われる方が多いですね。私なら、このようにします。
以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。
西早稲田教育研究所
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