WIE小論文navi:慶応SFC添削コメント例[総合政策]05年(4)

このコメントは、WIE小論文navi添削講座「慶應SFC小論文」で実際に行われたものです。


慶應SFC小論文(総合政策) 05年-2回目

  再提出して頂いた小論文答案を拝見しました。再提出ではありますが、いずれの設問の解答も出題意図を踏まえており、合格圏に至っていると申せます。

  それでは早速ですが、答案に沿って検討して参ります。

■ 答案に書き入れました赤字が改善すべき点です。abc……の記号に対応するコメントは下段に記入してありますのでご参照下さい。記号のない箇所については、単純な誤記や分量調節のためのものです。

問1
  初回提出小論文答案は、自説を支持する資料のみを取り上げていましたが、今回は、取り上げた論点について関係する資料は、自説を支持しないものも含めて議論しています。このことから、考察の深い、説得力のある小論文答案となっています。
  以下では、合否に関わる問題ではないものの、現在よりも水準を向上させるにはどのような点に注意すべきかを検討します。
────────────────────────────────────────
a 教員の処分について、資料では賛否両論があることを示しています。論点を明確にして、以降の段落でこれを検討するのは優れた論述方法です。
   なお、欲を言えば、答案※の「強制」はどのような強制か、補って説明したいところです。「思想信条の強制をしても構わない」とする立場の資料は登場しませんので、こうした誤解を読み手が起こさないように、例えば次のように表現することが考えられます。
【修正例】
   国旗国歌法が制定されてから、教育委員会により公立学校では、学習指導要領に基づいて「日の丸」「君が代」の指導の徹底が要請され、資料7・8にある様に、この方針に従わない教師が処分されるという事態が起きた。(以下略)
b 設問で要求のある「あなたの体験」を盛り込んでいます。ただし、冒頭で挙げた論点「教師の態度・あるいは教師の処分の是非」とあまり関係ない記述も盛り込まれています。
   また、ここで取り上げた項目を活かしたいのなら、児童生徒の動向を扱った資料(資料1・2・5)や、来賓や保護者(資料4)に言及することが望ましいということになります。ただし、小論文では、提示する各概念が密接に関係づけされていることが好ましいとされます。従って、あまり論点を広げすぎると、各概念の関係の説明ができなくなってしまい、今一つまとまりのない評価の低い小論文になってしまいがちです。このことから論点の絞り込みも検討すべきということになります。
c 児童生徒について論じるのならば、関連する資料(1・2・5)を挙げて、論評をしたいところです。
d まとめの段落に相当しますが、今までの記述に登場しない概念が新たに登場するので、読み手が混乱する恐れがあります。
   例えば、「世間体(答案※1)」や、「常識(答案※2)」は、「多数派の人がそう思っていることに自分も従う」ということであり、多数派の人々がそう思っていることが、正しいのかどうかまではわかりません。答案の今までの記述は、「公的な場では、私的な振る舞いを慎むべき」ということですが、この考えに更に説得力を持たせるには、
「世間体」や、「常識」といった理由ではなく、「公的な場の存在がなぜ重要なのか」を説明する方が良いのではないかと思います。

※ ここまでのコメントと、現在の小論文答案を利用した答案例を提示します。
   なお、概念の関係を添削者が読み取った範囲でより明確にした関係で、X様自身の考えとは若干異なるものになってしまっている可能性があります。この点は御了承下さい。

【答案例】
   国旗国歌法が制定され、教育委員会により公立学校で学習指導要領に基づいた「日の丸」「君が代」の指導の徹底が要請されたが、資料7・8にある様に、この方針に従わない教師が処分された。これに対し、教師の処分を妥当とする意見(資料9・11・13・15)と、処分に批判的な意見(資料10・12・16・17)があるが、私は処分が妥当と考える。
   処分を妥当とする資料にあるように、学校は、団体の一員としての行動を学ぶ教育の場なので、教師は私的な意見を慎まなくてはならない。確かに、処分に批判的な意見にあるように、教師の思想信条の自由の無視は問題だ。しかし、教師が要請されているのは公人として振舞うことのみであり、教師の内心の自由までは侵害していない。私が経験した高校の卒業式では、教師は全員起立していたので、式が混乱することはなかった。教師が公務を全うすることで厳粛とした式典になったのだ。
   一方で、生徒に対する国旗国歌の扱いは、教師とは異なるべきだ。私が経験した卒業式では、国歌をテープで流すだけであったため、多くの生徒が起立していたものの、あくまで自主的な起立だった。これは、生徒の思想信条の自由を守る観点から適切な運用だ。資料5では、歴史的な経緯から、「日の丸」「君が代」を快く思わない在日韓国人児童が登場する。また、日本人にも、「日の丸」「君が代」を快く思わない人もいる。こうしたことから、私人として式典に参加した生徒の行動を強制してしまっては、生徒の思想信条を侵害してしまう恐れがある。
   現在の社会は高度に複雑化しているため、他者と助け合わないと生きていけないという感覚を個々人が自発的に育むことが困難になっている。教育の場で、国旗国歌を利用し、集団の重要性、そして、他者と助け合いながら人間が生きていくべきことを、生徒児童の思想信条を侵害しない範囲で教師が教えていくことが必要だ。(786文字)

※  資料と関係づけながら説明すると、それほど多くの論点が盛り込めないことがわかると思います。「構想メモ」を作成する段階で、どのような論点がありうるか考察するだけでなく、制限字数に収まるように、論点の絞込みを行うことも重要です。読解力が低いと、論点を絞り込む以前に、書くことがなくて困るのですが、X様のように、読解力がある受験生の場合は、こうした論点の絞り込みの作業も重要となります。
────────────────────────────────────────

問2
  設問の要求に応えた合格圏の小論文答案です。
  ただ、現在の答案には、冗長な表現が多数含まれており、より短い字数で同様の内容を表現することが可能です。
  答案に盛り込む内容が、あまり思い浮かばないようであれば、現在の小論文答案の表現方法でもさほど問題とはなりませんが、現在よりも上のレベルを目指すのであれば、短い字数で表現する方法も学んでいくべきです。
────────────────────────────────────────
a 設問文をそのまま繰り返す必要はありません。
b 「~かも知れない。しかし、~」とありますが、前後の文章が、接続詞「しかし」で結ばれるのが適切とされる相反の関係にありません。
   これは、「かも知れない」と断定を避けた表現を用いたことで、書き手自身が結局何をいいたかったのか書いている途中でわからなくなってしまったからでしょう。ここは、「ネーションがあって楽しめるという前提」を肯定した上で、議論を進めてみたらどうでしょうか。そうすると、ネーションがあって楽しめるという前提を国民が自発的に受け入れて、国旗国歌を利用していることになりますので、修正したように表現する方が適切だということになります。「いつでも断定的な表現にするべき」というわけではありませんが、なるべくシンプルな表現を心がけることで概念の関係の混乱がおきにくくなります。
c 反語・疑問文は印象に残りやすいので、つい使ってしまいがちなのですが、小論文は、論証を重んじるものですので、反語・疑問文の利用に当たっては注意が必要です。小論文に利用された反語・疑問文は基本的に論点になり、論証が必要になるので、反語・疑問文を用いて、その論点が論証されない場合は、論証がなく小論文とは言えない、あるいは論旨が破綻していると評価されてしまう危険があるのです。
   反語・疑問文を答案に盛り込むのであれば、論旨の中で重要な項目、つまり字数を割いて論証される論点についてのみ使うようにしましょう。
   なお、これは蛇足ですが、新聞や一般大衆向けの雑誌等の媒体で、 反語・疑問文がよく使われていますが、これは、新聞雑誌等の媒体においては、論証が重視されておらず、問題提起で十分、あるいは、販売する側としては噂話の類でも、売れれば良い、また読者が、書き手の論証を期待していないからでしょう。こうした媒体の書き方をそのままお手本にすると、小論文試験で痛い目にあうことになります。
   文芸作品では、読み手による作品の多様な解釈が可能となるようなものが、味わい深い表現として好まれるのですが、小論文はこれとは異なります。小論文は、書き手の考えを正確に読み手に伝えることが目的とされるものです。どうかこの部分で勘違いをなさらないようにして頂きたいと思います。
d 日常生活では、情緒的な人のつながりも重視されますが、小論文で、情緒的な同意を相手に求める表現を用いても、ほとんど評価されません。むしろ、論理による読み手への説得が評価されるのです。従って、この部分は修正したようにシンプルな表現のほうが好ましいということになります。
────────────────────────────────────────
  添削コメントは以上です。
  修正箇所が多くなりましたが、これは、小論文答案の骨格ができること(=合格答案の条件を満たすこと)で、より細かい箇所が目立つようになってきたからです。X様が着実に実力を向上させているのは確かですので、この調子で頑張って下さい。
  次回の答案提出を心よりお待ちしています。

西早稲田教育研究所
慶應SFC小論文講座


・講座開始のご案内 (2010/8/4)  ≫詳細