WIE小論文navi:慶応SFC添削コメント例[総合政策]07年(1)
このコメントは、WIE小論文navi添削講座「慶應SFC小論文」で実際に行われたものです。
慶応SFC小論文[総合政策]07年-1回目
引き続き、07年度の添削をして参ります。
本年の出題の特徴のひとつは、解答制限字数には大きな変化がないのにもかかわらず、制限時間が180分から120分に短縮された点にあります。この点からみると、受験生の負担が増しているように見えます。ただし、設問文が資料の利用方法を細かく指定することで、実際には精読しなければならない資料は少なくなっています。出題者側は、全体として、制限時間にあわせてバランスを取るようにしています。
SFCの小論文は資料の分量が多いことが特徴の一つであり、これに対する対処の仕方を誤ると、制限時間内に答案を作成することはできません。過去問演習の初期段階では、時間をかけてでも構いませんので、資料全体を精読して合格答案を作成することに専念して欲しいのですが、慣れてきましたら、設問文を通して設問の要求を把握し、資料から読み取るべきポイントを事前に整理しておくことが重要になってきます。読み取るべきポイントが事前に理解できていれば、資料の読解に必要とする時間を節約できます。あせって、すぐに資料を読み始めるのではなく、まずは、設問文を慎重に読むことが重要なのです。
本年の出題の特徴の二点目は、思考過程を分けて答案を作成させようとしている点にあります。詳しくはテキストの解説にありますが、こうした出題がなされた理由は、「小論文のテーマ=時事問題」と単純に理解している受験生が多く、「議論にならない議論」をしている答案が少なくないからでしょう。独立の文章としては、優れた答案を書ける受験生は少なくないのですが、大学側は、決して、文章表現力だけが優れた受験生の入学を望んでいるわけではありません。大学側は、議論のできる受験生、つまり相手の意見(→資料)を踏まえて、設定された問題(→設問文)について意見(→答案)を発信できる人物を望んでいるのです。独立した意見(→答案)としてはいかに見栄えのするものであっても、相手の意見(→資料)を無視したり、設定された問題(→設問文)と関係ないことを述べては、議論にはなりません。
本年の出題では、設問をふたつに分けることで、受験生に正しく議論を行えるように誘導を与えているのです。
提出して頂いた答案を拝見しました。設問文の要求には形式的に従っているのですが、資料1・2・3を無視したことが影響してしまったためか、提出された答案では「議論の本位」にはなりえないものを議論の本位として論じています。このことが影響し、問1問2ともに、WIEの基準では残念ながら合格圏外の答案です。
なお、実際の試験では、大多数の受験生が設問の要求を理解できず、設問の要求を外した答案から合格者を選別した可能性もあります。その場合、○様の答案は、大きく設問の要求を外したわけではないので、今のレベルで運よく合格していた可能性があります。
環境情報と異なる総合政策の小論文の難しさのひとつは、複数の資料を俯瞰できる統一した視点を解答者に要求されていることが多いということです。この視点は、資料を丁寧に読んでいるだけで自動的に定まるものではなく、解答者が能動的に探し当てることが必要です。純粋理系的な感覚だと、安易に仮説を立てて議論を組み立てることは、実験等を用いて、厳密に論証することがよしとされる理系の中心的な考え(=論理実証主義)を疎んじているとして、低く評価されがちなのですが、学問が扱う対象は、自然科学のように、厳密な論証が可能なものばかりではありません。実のところ、自然科学が厳密だとする考えは、理系の分野に従事する人々の思いこみに過ぎないことが、科学哲学では言及されており、論証の厳密性は程度の問題に過ぎません。このことから、自然科学が全ての学問の中で一番優れており、他の学問がいい加減というわけではありません。
社会科学は、自然科学に比べると、論証の厳密さは劣るのですが、かわりに、扱う対象が広いという特徴があります(自然科学は、扱いやすい対象に限定して研究しています)。
このように、扱う対象が広い社会科学では、多少の論理の厳密性は犠牲にしても、学問の対象として扱えるようにすることを重視します。このときに求められる能力の一つが、
価値判断に関する議論の能力です。今回の小論文で言えば、どの資料(→資料4・5・6)が優れているかを解答者なりに判断し、その根拠を示すことがこれに相当します。
これには、資料それぞれをバラバラに読むのではなく、全体を統一した視点から、資料を検討する必要があります。これが、今回の設問文にある「議論の本位」なのです。この議論の本位は、資料全体をまとめて議論できるのであれば、どのようなものでも許容されます(より正確には、議論の本位の条件が資料1・2・3で検討されているので、これを踏まえることが必要です)。
それでは、提出された答案に対して具体的な改善コメントを記していきましょう。これを参考に、再提出に取り組んで下さい。
■ 答案に書き入れました赤字が改善すべき点です。abc……の記号に対応するコメントは下段に記入してありますのでご参照下さい。記号のない箇所については、単純な誤記や分量調節のためのものです。
問1
資料1・2・3の読解が不十分であったことが影響し、不適切なものを議論の本位に設定して論じています。議論とは、異なる意見を持つ者が意見を戦わせる行為です(資料1を読めばこれがわかるはずです)。従って単独の資料一つでは、それは一つの意見に過ぎず、議論の材料に過ぎません。現在の答案は、資料ひとつひとつに議論の本位が存在するかのように答案を作成しています。今回の議論の場は、3つの資料を比較検討する場ですから、原則として議論の本位は、3つの資料に共通に存在するものとして設定する必要があります(例外として、議論の場に加えるのが不適切と判断できる資料があり、その理由を示せるのであれば、その資料については、議論の本位が含まれていないとしても構いません)。
この設問では、議論が整理できればよく、自説(=論点に対する最終的な書き手の立場)を提示する必要はありません。
問1の答案に盛り込むべきことは、
① 資料1・2・3を利用して、「議論の本位」の満たすべき条件について論じる。
② 資料4・5・6の議論を整理する。
③「議論の本位」及び「議論の箇条」を述べる。
資料2に近い立場で議論の本位の満たすべき条件を定めたのならば、論者の立場を「正しい問題の設定」として簡単に示しても構いませんが、資料3に近い立場でこの条件を定めたのならば、「観点」のみを示せばよく、論者の立場をこの設問で示す必要はないでしょう。
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a資料の要約を示しています。これが適切な要約であるかどうかを判断するには、解答者の設定する「議論の本位」や「議論の箇条」と関連する概念を資料から抽出できているかどうかにかかっています。どのような議論の本位や議論の箇条を設定するかで、適切な要約は異なってくるということです。
なお、資料の誤読も、減点対象となります。資料5の内容の紹介として、答案※の部分で、「人口容量を拡大すべき」としていますが、これは、資料の誤読です。資料5では、政府の少子化対策が有効でないことを人口容量の考え方を示しながら説明しているだけであり、少子化に有効な対策が何であるかまでは明示していません。
人口容量拡大の条件として「文明次元での転換」を挙げていますが、これはあくまで条件であり、「人口容量を拡大すべし」とも述べていません。
確かに、資料5は、少子化をテーマに設定して論じた場合には、一番扱いが難しい資料なのですが、それでも資料を曲解して論じるわけにはいきません。先ほど、社会科学では、自然科学ほど論理の厳密性は要求されないと述べましたが、それはあくまで、自然科学との比較においての程度の差であり、資料の誤読や、論理の矛盾までもが許容されるというわけではありません。
ここで、参考までに資料5に現れる重要概念の関係を整理しておきます。
資料5の第4段落には次のような記述があります。
● 一人当たりの容量である「生活水準(経済、環境、自由度などを統合した水準)」
● 全体の容量が限界に近づくと、許容人口は生活水準が高ければ少なく、水準が低け れば多くなる。
このことから、次の関係があることがわかります。
【人口容量】=【生活水準】×【許容人口】
なお、問2では、資料5に登場する「【人口容量】=【生活水準】×【許容人口】」の考え方自体の問題点を指摘するか、それとも、この考え方を受け入れた上で、資料456を評価するかは解答者に委ねられています。ただし、資料5が何を主張しているかを正確におさえておくことが、優れた答案を作成するには、求められることとなります。
b資料1・2・3を利用して議論の本位の満たすべき条件について論じてから、少子化を巡る議論の本位について、資料4・5・6を利用して論じるようにして下さい。こうした手続きを踏まないと、解答者の提示する「少子化を巡る議論における議論の本位(と思ったこと)」が、本当に議論の本位なのか読み手には判断ができません。
なお、今回の議論の場は、原則として3つの資料を比較検討する場です。現在の答案は、単独の資料ひとつひとつに議論の本位があるかのように書いているので、議論の本位(=重要概念)を理解していないと評価されてしまいます。
答案を修正するヒントを申し上げると、今回議論の本位としたものは、実は、議論の箇条に相当し、この上位の概念(より抽象度の高い概念)として、議論の本位があるのではないでしょうか。これは、議論の本位の設定次第ですが、議論の箇条が議論の本位と関係づけできれば、今の答案に盛り込まれている議論の本位を議論の箇条として答案を作成することは可能でしょう。また、議論の本位の設定次第では、現在の答案で議論の本位としたものが、新たに設定する議論の本位との対応関係が示せなくなる可能性もあります。この場合には別の議論の箇条を設定するようにして下さい。
c設問文では、「議論の箇条」を「争点」や「論点」と読み変えてよいことになっているので、議論の箇条の満たすべき条件については特に説明なく論じて構いません。ただし、議論の箇条は、資料との関連が示せることだけでなく、解答者の設定した議論の本位と関連していることが読み手にわかるようなものでなければなりません。現在の答案には、「議論の本位」が存在しないために、ここで述べられている内容が適切な議論の箇条なのかどうか読み手には判断できません。
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以上のコメントとテキスト「解説」を参考にして、答案を全面的に修正して下さい。
問2
適切な議論の本位が問1で設定されていないので、この設問に関しては合格答案を作成することが原理的に不可能です。大変酷に聞こえるかもしれませんが、採点基準次第では、大学側は問2に関しては一切目を通さず、採点対象外(=0点)と評価してしまう可能性があると申せます。このように、設問の要求を外す罪は重いのです。
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aこれはあくまで例ですが、「出生率を向上させること」を議論の本位とすれば、現在の答案問1のbはどれも、出生率を向上させる対策に相当することになりますので、それぞれの対策の有効性を問2で議論すれば、合格答案が作成できるでしょう。
当たり前すぎるとして、答案には盛り込まなかったのかも知れませんが、議論の本位は関連する資料全体を見渡す視点ですから、このような単純なものでも構わないのです。
なお、少々議論が込み入ってしまいますが、「出生率の向上」は絶対的な善というわけではありません。たとえば、資料5の概念の関係『【人口容量】=【生活水準】×【許容人口】』を認めると、人口容量が増えない状況で、出生率を向上させると、生活水準が下がるか、平均寿命が落ちる行動(=自殺等)により人口増加に歯止め(→許容人口内におさまるようになる)がかかります。また、これは資料にはありませんが、避妊や中絶を禁止すれば、間違いなく出生率は向上しますが、このような対策をすると人権問題になるでしょう。こうしたことを考慮すると、また別の議論の本位が設定可能ということになります。議論の本位には唯一の正解はなく、資料を踏まえて論じることができるのであればどのようなものでも可能ということです。
b資料5に賛成しない場合、議論をしやすいのは、『【人口容量】=【生活水準】×【許容人口】』の考え方自体を否定してしまうことなのですが、『【人口容量】=【生活水準】×【許容人口】』の考え方を認めた上で、他の資料(=資料6)に賛同することは可能ですね。
「保育サービス業の活性化」→「文明転換への助け」といった論旨で、資料5の考え方を利用しながら、資料6に賛成しており、これは、○様が相当に高度の思考力を持っているとして高く評価できます。議論の本位の設定にさえ成功すれば、現在の答案の記述を生かして、文句なしの合格答案を作成できるでしょう。
※問1で設定する議論の本位や議論の箇条次第では、現在の記述が生かせなくなる可能性もあります。設問内部での答案の論旨の整合性だけでなく、複数の設問をまとめて読んだときにも、書き手の考えが、一つのまとまりとして読み手に伝わるような答案を作成して下さい。
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以上のコメントとテキスト「解説」を参考にして、答案を修正して下さい。
再提出の答案を心よりお待ちしています。
西早稲田教育研究所
慶應SFC小論文講座
担当 中島 泰平