WIE小論文公開講座-第2回:課題文をどう処理するか-

この「公開講座」は、以前「入門小論文」として開講していたものです。小論文入試に取り組むみなさんのために、テキストのみをサイト上で公開することにしました。

コンセプト

※現在の「入門小論文」は、内容を改めて開講中です。
受講を希望される方は、こちらの『基礎力養成講座-入門小論文』よりお申し込みください。

  前回で、一応の文章の書き方は理解していただけたものと思います。添削の結果、大幅な書き直しを指示されて、ぎくりとしている人もいる(こういう人のほうがむしろ多数派?)でしょう。しかし、あわてずに何回か練習を続けていけば、必ず合格圏の文章を書けるようになります。
  今回は「課題文を読んでから答えるタイプ」の問題への対策です。前回の課題文のない場合との違いは、一言で言えば、課題文の要約をして、それを「起・承・転・結」の起の部分におく、ということです。もちろん、小論文には色々な書き方があり、これ以外の書き方をしても十分合格することはできます。しかし、最初は、一番基本的な方法をマスターして欲しいのです。

要約の必要性について

 課題文があるときにまず必要なことは、その課題文の要約を作ることです。課題が、文章でなく図や表・絵画(マンガなども含む)であった場合でも同じことで、その図が何を表現しているのか、そこから何がわかるのか、などを考え、整理することが重要なのです。
  では、課題文付きの小論文ではなぜ要約が必要なのでしょうか?次のようなわけがあるのです。
小論文課題から手がかりを探す ①「問題文を理解している」ことのアピール。
  当然のことですが、課題文がついている場合には「次の~を読んで」といった指示があります。小論文に課題文の要約をしておけば、「私は指示に従って、きちんと課題文を読みました」と出題者側にアピールすることになります。バカバカしい、と思うかもしれませんが、最低限のルールは守っている、ということだけでもいくらかの得点にはなり得ます。
②自分の論じようとすることの手がかりを探す。
  これも案外見落としがちになりますが、「何を書くか」のヒントは、課題文そのものにあります。要約とは、課題文の述べていることをまとめる作業なわけですから、要約をしていくうちに「そうだ、この課題文の言っているとおりだ」とか「なに言ってやがんでぃ」と思うきっかけがつかめるのではないでしょうか。つまり、要約することで肯定なり否定なりの論点が手に入るわけです。
③分量をかせぐ。
  これは要求された解答の文字数にもよるのですが、ほとんどの場合1000字ぐらいより多いと、むしろ書くことが足りなくて困ることのほうが一般的でしょう。全体の4分の1ぐらいまでなら、要約で字数をかせいでしまうという手があります。
  さて、以上が通常の小論文で、要約をしなければならない(あるいはしたほうがよい)理由です。また、慶應大学のように、要約だけで独立した設問としている例も多いですから、ここで一つ要約の作り方をマスターしてください。

要約のしかた

  要約を上手に進めるためには、きちんとした手順を踏まなければなりません。もちろん、一読してすぐ内容がわかる場合もあるかもしれませんが、何度読み返してもさっぱり意味のわからない課題文に出くわすこともあるでしょう。ですから、きちんとした手順を踏んで文章を要約し、限られた時間を確実かつ有効に使いましょう。
①まず「問題文に限定がついていないか」に注意する。
  「作者の考えをまとめなさい」「~について要約しなさい」といった限定に注意しましょう。これをはずすと得点になりません。実は、問題文の限定は、要約を作っていくときのヒントになっていることが多いのです。
②重要語句をチェックしながら読む。
  課題文を読むとき、重要語句にアンダーラインを引きながら読むようにしましょう。その場合、アンダーラインはだらだらと長く引くのではなく、なるべく単語だけや、せいぜい語句程度におさえるようにします。さもないと、チェックした部分だらけになってしまい、結局要約でどこを取り上げるか自分でもわからなくなってしまいます(学校の定期試験の勉強の時、教科書がアンダーラインで埋まってしまって、ポイントがわからなくなってしまった、という経験はありませんか?)。
③段落ごとに、要約を作ってみる。
  課題文の長さにもよりますが、いきなり全部を要約しようとせず、課題文の段落ごとに一文ずつまとめをつくり、最後に全体をつなげて要約文を作るようにしましょう。大体課題文が5段落以上ある場合には、この方法が確実ですし、要約文の制限字数を考えながらまとめていくためにも、有効なやり方です。

課題文に線を引きながら読む

 さて、この手順で、実際の大学入試問題に挑戦してみましょう。


次の課題文(A)(B)のうち、いずれか一題を選択し、その内容に関してあなた自身の論点を見出し、五〇〇字~七〇〇字以内で小論文にまとめなさい。なお、解答用紙の(  )のなかに、選択した課題文の記号〔(A)または(B)〕を記入し、あなたの小論文に対する表題を(  )のなかに記入しなさい。

(A) 『沈黙の春』が問いかけるもの
  レイチェル・カーソンの『沈黙の春』は、環境問題、公害問題の「古典」と考えられている。
  「古典」という扱われ方は、だれでもその書名はよく知っている割合には、現在ではその内容を必ずしもきちんと読まれていないということでもある。
  たとえばこういう風である。

 

鳥がまた帰ってくると、ああ春がきたな、と思う。でも、朝早く起きても、鳥の鳴き声がしない。それでいて、春がやってくる─アメリカでは、こんなことが珍しくなくなってきた。いままでいろんな鳥が鳴いていたのに、急に鳴き声が消え、目を楽しませた色とりどりの鳥の姿も消えた。突然のことだった。知らぬ間に、そうなってしまったのだ。

 

二〇世紀の末の現在、レイチェル・カーソンのこの新しい戦慄を、いくらか「時代おくれ」のものであるように感じる人は多くなっている。それは書かれていることが、解決され、すでに存在しなくなっているからではない。反対に、それが多くの国々で、ふつうのこととなり、だれもそのことに注目しなくなったからである。気づいても、新しい戦慄の声を挙げるということを、しなくなっているからである。人間たちもまた沈黙してしまったからである。あるいは、われわれの中の感受性も、声を挙げるということをしなくなったからである。
見田宗介『現代の社会理論』(岩波書店)より抜粋

(B) 本人が望めば安楽死認めて
  オランダでは、安楽死を完全合法化するための刑法改正案が年内にも成立の見通しだと、少し前の新聞に出ていた。私は安楽死の法制化に賛成だ。同国では一九九五年、約百人に三人が安楽死を選択して死亡した。今日の日本にとっては恐ろしいくらいの数字だと思う。
  日本では九五年、「東海大安楽死裁判」の横浜地裁の判決で、①耐え難い肉体的苦痛 ②死期が迫っている③代替手段がない④本人の明確な意思、の四要件を満たせば医師は罪に問われないと示された。しかし、その後も四つの要件を満たす安楽死の実例は明らかになっていない。法制化への表立った動きもないようだ。
  私はなぜ安楽死がいけないのか疑問に思う。本人が死ぬことを認めるのだから問題はないはずだ。
  自然死を待たずに、他人が生命のコントロールをすることについては私も初めは驚き、ためらったが、最優先されるべきは本人の意思ではないだろうか。決してその人の存在を軽視したものではなく、結局、その人の人生をできる限り幸せなものにするためだ。
  先の記事では、米オレゴン州で十八歳以上の末期患者への自殺ほう助を認める安楽死法が住民投票で可決(九四年)されるなど、世界各地で動きがある。わが国も早く法制化に向けて動き出さねばならない。
─朝日新聞「声」(若い世代)より─


(2000年度 四日市大学 経済学部 60分)


 実際には(A)(B)どちらかだけを答えればよいのですが、ここでは(A)をやや詳しく、(B)については作業の結果だけを示してみます。
  また制限字数は、500~700字ですので、1行20字ならば、全体で25行以上35行以内で書かなければなりません。要約は起の部分にあたりますから、5分の1~4分の1、5行~10行ぐらい(100字~200字ぐらい)が分量の目安でしょう。

◎(A)を選んだときの解答例
  さっそく(A)を、手順に従ってみていきましょう。まず設問文をしっかり読みとりましょう。ここでは、「その内容に関してあなた自身の論点を見出し」という部分に注意が必要です。つまり、課題文のなかから自分の論じやすい点を見つけだせば良いので、課題文の内容すべてにわたって議論する必要はない、ということです。

1)重要語句にアンダーラインを引く
重要語句にアンダーラインを引きながら読んでみましょう。

 レイチェル・カーソンの『沈黙の春』は、環境問題、公害問題の「古典」と考えられている。
  「古典」という扱われ方は、だれでもその書名はよく知っている割合には、現在ではその内容を必ずしもきちんと読まれていないということでもある。
  たとえばこういう風である。
 
  鳥がまた帰ってくると、ああ春がきたな、と思う。でも、朝早く起きても、鳥の鳴き声がしない。それでいて、春がやってくる─アメリカでは、こんなことが珍しくなくなってきた。いままでいろんな鳥が鳴いていたのに、急に鳴き声が消え、目を楽しませた色とりどりの鳥の姿も消えた。突然のことだった。知らぬ間に、そうなってしまったのだ。

  二〇世紀の末の現在、レイチェル・カーソンのこの新しい戦慄を、いくらか「時代おくれ」のものであるように感じる人は多くなっている。それは書かれていることが、解決され、すでに存在しなくなっているからではない。反対に、それが多くの国々で、ふつうのこととなり、だれもそのことに注目しなくなったからである。気づいても、新しい戦慄の声を挙げるということを、しなくなっているからである。人間たちもまた沈黙してしまったからである。あるいは、われわれの中の感受性も、声を挙げるということをしなくなったからである。

  ここで、注意してほしいことは、青字で示したように印象的だからと言って、長い部分をチェックしてしまうことは避けて、なるべく単語単位にするということです。ここが「抜粋(抜書き)」をつくるのと、「要約」の違いです。要約の場合には、適宜原文の言葉を言い換えたり、まとめるために順番を変える必要が出てきます。しかし、長い文をそのまま使おうとすると、邪魔になることが多いのです。この部分は「書名はよく知っている」割合には、現在ではその内容を必ずしもきちんと読まれていないということでもある。」ぐらいにチェックしておけば十分です。

2)要約してみる
  次に課題文の要約についてみていきます。ただし、ここで、いきなり完成された要約文を書く必要はありません。問題文のところで指摘したように、「あなた自身の論点を見出」せばよいのですから、ざっとメモをして、先に論点を見つけてしまいましょう。
  私のメモは

①「古典」とは、知られている割に読まれないものである。
②レイチェル・カーソンの「知らぬ間に鳥の鳴き声が消え、姿をみなくなった」という新しい戦慄も、「時代おくれ」に感じられる。
③それは書かれていることが存在しなくなったからではなく、だれも注目しなくなったからである。
④それは、われわれの中の感受性も声を挙げるということをしなくなったからである。

といったところです(実際には自分だけわかればよいので、こんなに丁寧に書く必要はありません)。実は私は課題文に対して「そうかなあ」と感じています(つまりあまり同意できない)ので、それが小論文を書く上での論点になっていきます。
  手順としてはここで要約文だけ書いてしまう方法もあります。特に「筆者の考えをまとめよ」など、要約を明らかに求めている設問の場合には、そうしなければなりません。しかし、今回のように解答する側で「論点を見出」せばよい場合には、先に承・転・結の構成を考えてしまった方が、早くてよい小論文が書けます。

3)全体の構成を考える
  ここからは第1講(課題文のない場合)と同じ手順です。ただし、起の部分で、課題文の要約を書くことと、承以下で、取り上げるテーマが課題文と関連していなければいけないという2点が異なります。
  これも、私のメモを見てください。

起……課題文の要約
承……確かにそうだ。生命倫理や教育問題でも同じ。
転……だが、感受性の問題か。にぶくなるのはあたりまえ。古典を暗記しても無駄。自分の考えに取り入れる。具体的な問題を整理して理解できる。
結……古典を生きたものにしていく。

  ここでお断りしておきますが、このとおりのメモを作りなさいといっているのではありません。もっと、レイチェル・カーソンや環境問題にしぼったり、感受性の問題とする課題文の立場に賛成するものを書いても一向に構いません。ただ、参考にしてほしいのは、メモのとりかたです。形式も分量もせいぜいこのぐらいにしておかないと、小論文を書く時間がなくなってしまうということを、例としてお見せしているのです。

4)実際に解答用紙に書いていく。
  まず、起の部分です。

 筆者は、「古典」とは、よく知られている
のに読まれていない書物とし、レイチェル・
カーソンを例に、「古典」は「時代おくれ」と
いう印象を与えるという。しかし、それは、
その書物の取り上げている問題が存在しなく
なったから
ではなく、注目されなくなった
けであり、私たちの感受性がにぶっているた
めだと述べている。

  8行になりました(あと、最低17行書かねばならないし、逆に最大27行しか書けません)。アンダーラインの部分が、課題文を読むときにチェックした用語です(実際の解答の時には、こんな線をひいてはいけません)。しかしチェックした用語でも、要約文には使わないことがあります。なぜなら最初に読んだ時点では、完全に課題文の内容を理解することは不可能ですから、課題文の趣旨とは関係ない用語もチェックしてしまうことがあるからです。逆に、チェックした用語をすべて使おうとすると、かえって要約に失敗することにもなりかねません。要約文を書くとき、「この用語はいらないな」と思ったら、積極的に捨てていきましょう。
  承の部分です。ここも、5行~10行(100~200字)で収めましょう。

 確かに、今日重要な問題であるにもかかわ
らず、それを最初に指摘したり、理論的に位
置付けた「古典」が読まれなくなっているこ
とが多い。生命倫理や教育問題などについて
の個々の事件や出来事は知っていても、それ
がそもそもどうして重要な問題なのか、考え
てみる事さえしない人が多いのではないか。

  7行になりました(あと、最低10行、逆に最大20行です)。
  次に一番重要な転の部分です。残りの行数を意識しながら、書いていきましょう。

 だが、これは課題文の言うように感受性の
問題ではない。どんなに強い苦しみや悲しみ
でも、いつかは弱まるというのは当然のこと
であり、それ自体むしろ必要なことですらあ
る。また「古典」を一字一句暗記することが
求められているのでもない。大切なことは、
「古典」といわれる書物の取り上げている問
題や主張を、いかにわれわれ読者が自分の考
えの中に取り入れるかである。そうすること
で、マスコミが伝える大量の事件や事例を、
どう整理し理解したらよいか、判断の枠組み
が得られる。結局、「古典」の価値とは、こ
のようなわれわれの考え方を発展させ豊かに
していくことにこそあるといえる。

  14行です。これで合計29行(580字)ですから、「500字以上」という条件はクリアです。時間がなければ、これで書くほうは打ち切って、見直しに入りましょう。ただし、時間があれば、結の部分で、カッコヨク終わりにしましょう。
  結の部分です。
  われわれが「古典」と出会うとき、「新たな戦慄」といった感覚を与えられる。しかし、「古典」が生きたものとなっていくには、こうした印象によるのではなく、その思想が、どこまで私たちの思想の血となり肉となるかにかかっているのである。
  これで完成です。 結の部分で6行(120字)ですから全体で35行(700字)となりました。是非この手順で、練習問題を解いてみてください。
  なお、この出題例では、表題をつけることになっていますが、別の解答欄が用意されていますので、本文の字数には含まれません。タイトルのつけ方は、自分の書いた小論文を読み直し、それを1つの文章にまとめればよいのです。
この場合、具体的には「古典」の価値とは何かといったものが適当でしょう。

◎(B)を選んだときの解答例
  ここで、(B)の方の解答作業を間単に示しておきましょう。

1)重要語句にアンダーラインを引く

 オランダでは、安楽死を完全合法化するための刑法改正案が年内にも成立の見通しだと、少し前の新聞に出ていた。私は安楽死の法制化に賛成だ。同国では一九九五年、 約百人に三人が安楽死を選択して死亡した。今日の日本にとっては恐ろしいくらいの数字だと思う。
  日本では九五年、「東海大安楽死裁判」の横浜地裁の判決で、①耐え難い肉体的苦痛 ②死期が迫っている③代替手段がない④本人の明確な意思、の四要件を満たせば医師は罪に問われないと示された。しかし、その後も四つの要件を満たす安楽死の実例は明らかになっていない。法制化への表立った動きもないようだ。
  私はなぜ安楽死がいけないのか疑問に思う。本人が死ぬことを認めるのだから問題はないはずだ。
  自然死を待たずに、他人が生命のコントロールをすることについては私も初めは驚 き、ためらったが、最優先されるべきは本人の意思ではないだろうか。決してその人の存在を軽視したものではなく、結局、その人の人生をできる限り幸せなものにするためだ。
  先の記事では、米オレゴン州で十八歳以上の末期患者への自殺ほう助を認める安楽死法が住民投票で可決(九四年)されるなど、世界各地で動きがある。わが国も早く法制化に向けて動き出さねばならない。

2)要約のためのメモ。ここでは課題文の段落ごとにまとめてみました。

①オランダのように安楽死の法制化をすることに賛成。
②日本では安楽死の四つの要件が裁判で示されているが、法制化への表立った動きはない
本人が死ぬことを認めれば問題はない
④他人が生命のコントロールをすることにためらいがあったが、本人の意思が優先されるべきで、その人をできる限り幸せにすることが、安楽死だと考える。
米オレゴン州でも安楽死は認められた。

3)全体の構成のメモ

起……課題文の要約
承……安楽死をするかしないかは、本人の意志だけで決めてよいのか。自殺と同じではないか。生命とは、その人だけのものか。
転……死の苦痛とは何か。肉体的なもの→無痛医療、死の恐怖→心のケア。すでにホスピスでは実践されている。
結……死の位置づけ

4)実際の解答

 課題文では、オランダの例をあげ、安楽死
を早期に法制化することをもとめている。日
本でも裁判を通じて、安楽死のための4つの
要件がすでに打ち出されているが、安楽死の
実施例はないことを指摘した上で、課題文は
本人が死ぬことを認めれば、安楽死に問題は
ないとする。本人の意思が最優先されるべき
で、本人が安楽死を望めば、それがその人を
できる限り幸せにすることであると主張する。
  だが、人の生命とは、その人だけのもので
あろうか。生きることの苦痛に耐えられなけ
れば死を選んでも良い、ということは、自殺
を認める主張につながる。また、その人に生
きていて欲しいと望む家族や友人たちの意思
は、どうでも良いことなのだろうか。逆に、
「他の人に迷惑をかけている」という思いに
悩まされ、安楽死を望む人がいたとして、こ
れも本人の幸せといえるのだろうか。
  今日、痛みなどの肉体的な苦痛を軽減する
医療技術は急速に進歩している。また、患者
が少しでも安らかに死を迎えられるようにと
心のケアにつとめるホスピスの活動も続けら
れている。これらの試みは、苦痛に満ち生き
るに値しない生命を、安楽死によって断ち切
ることとは対極にあるし、ただ単に死を遅ら
せる延命治療とも異なる。今求められている
のは、わずかな時間であっても、残された人
生を少しでも生きるに値するものにしていこ
うとする努力ではないだろうか。
  死は避けることのできないものである。そ
れだけに、限られた生の質を高める努力を、
その最後の一瞬まで続けるべきである。

タイトル 安楽死は最良の方法か

最後に、練習問題をだします。


【設問】
  奉仕活動義務化について、あなたの意見を700字以内でまとめなさい。

  教育改革国民会議の中間報告「教育を変える十七の提案」の一つに「奉仕活動の義務化」が挙げられた。中間報告では「これまでの要求することに主力をおいた教育から、与えられ、与えることの双方が個人と杜会の中で温かい潮流を作ることが望まれる」などとし、①小中学校で二週間、高校で一カ月間、共同生活などによる奉仕活動を行う②一定の試験期間をおいて、満十八歳の国民すべてに一年間程度、農作業や森林の整備、高齢者介護などの奉仕活動を義務付けることを検討する③奉仕活動の指導には、各業種の熟練者、青年海外協力隊の経験者、青少年活動指導者などの参加を求め、具体的内容は子どもの成長段階に応じたものとする─の実現を強く求めている。
  いじめ、不登校、校内暴力、学級崩壊などの問題をはらんだ教育現場と子どもたちの置かれている状況を考えた時、「一律主義を改め、個性を伸ばす教育システムを導入する」などの提案内容は賛同できるが、「奉仕活動の義務化」には、異を唱えざるを得ない。
  「義務化」提案の背景には、阪神・淡路大震災を契機としたボランティア活動への杜会的関心の高まり、平成九年に施行された「教員免許取得希望者への介護等体験の義務化」、そして「学童・生徒のボランティア活動普及事業」「ボランティア体験学習」などを通じ、学習指導要領に明記されている「自ら学ぶ、自ら考える力の育成」「豊かな体験を通して生徒の内面に根ざした道徳性の育成」に、ボランティア活動が大きな効果を果たすことが教育現場だけでなく広く杜会に認知され、定着してきたことが挙げられる。
  中間報告が「ボランティア」という言葉を使わず「奉仕活動」とした理由は、ボランティア活動の大原則である「自発性」が「義務化」と相矛盾するからに外ならないが、ここでいわれている「奉仕活動」はすなわち「ボランティア活動」と捉えて良いだろう。この場合、児童・生徒、福祉サービス利用者にとって多くのマイナス面が考えられる。
  児童・生徒の間では、奉仕活動が嫌な生徒の不登校が増加したり、共同生活の中でいじめが助長されること、自発性の芽が摘み取られることなどが懸念されるほか、その指導に当たる教員の知識、技術、経験などを鑑みると疑間や不安がある。
  サービス利用者にとっては、仕方なく参加し、ゆえに杜会福祉への基本的理解もない児童・生徒によって人権や生活権が侵害されることが危惧される。実際に教員免許取得希望者を受け入れている施設などからは「利用者と一言も話をしないで帰った」「約束の日に来なかった」との報告が挙がっている。「利用者主体」の仕組み作りが求められている中、ボランティアの受け入れに際しても利用者一人ひとりの意志・選択を尊重しなくてはなるまい。
   (後略)
出典:福祉新聞 2000年11月13目
社説「奉仕活動義務化」

(2000年度 日本社会事業大学 社会福祉学部 福祉援助学科 60分)

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