京大添削コメント例[法学部]16年

このコメントは、WIE小論文navi添削講座「京都大学小論文」で実際に行われたものです。


●京大法学部特色入試講座を担当します西田と申します。
 過去問に挑戦された手応えはいかがでしたか。出題の分析は、別途お申し込みの大学別講座でお送りしたテキストで述べましたので繰り返しません。しかし、昨年の受講された方の感想を見ますと 課題文の量が多く、その対応に苦慮したというものが多いようです。

 お送りいただいた答案は、誤字脱字や主語述語の不適応といった問題は少なく、解答者の国語力は十分だと申せます。また、設問の要求・課題文の内容はほぼ正確に理解しておいでです。少なからぬ受験生がこうした基本でミスをしていて、いわば見当外れの答案がある中、高く評価できます。最新の過去問から取り組まれましたので、まだこちらの添削例は少ないのですが、初回提出としては、受講生全体の平均以上の水準と申せます。
 しかしながら、問一・問二ともに初歩的なミスがあるために、合格圏を逃しています。おそらく一度注意されれば、簡単に克服できるミスですが、基本的なものだけに、致命的な減点になります。
 ただし、同じく初歩的・基本的といいましても、問一の問題点と問二のそれはかなり異質です。早速ですが、小問ごとに具体的に検討して参りましょう。

 答案に対するコメントは、小問ごとに解説の後にまとめてあります。ABC……の記号
は、答案のものと対応しています。なお、特にコメントのない修正は、単純な語句の誤りや、分量調整のためのものです。

問1
 出題側は比較的易しい設問のつもりなのでしょうが、苦戦している受講生が多くなっています。
 設問の要求は「『ソーシャル・タイラニー』に対抗する自由」の具体例を挙げ、その説明をすることですね。この様な設問に対しては、まず課題文の重要概念=「ソーシャル・タイラニー」に関する概念の関係を整理します。その上で、その整理した結果と概念の関係が対応し、かつ課題文と同等ないしはそれより具体性の高い(=抽象度が低い)事例を示すことになります。
 現在の答案では、この具体例としてLGBTを上げていますが、課題文との対応関係が明示されていません。この条件を満たしませんと、合格圏の答案とはならない、致命的なミスです。

 また、これ以外にも概念の関係付け=論旨構成に不十分な点が散見されます。細かい国語表現の問題も指摘しますが、以上の点を中心に改善を考えます。

(添削コメント)

[解答は省略]

A:この主体(主語)が不明確です。このため、この「良心」「自由」が抑圧されている人々(現在の例でいえばLGBT)なのか、あるいはその周囲の人々(LGBTではないが、それに対する抑圧はすべきでないと考える人々)なのでしょうか。このように、解答者の用意した「自由」が他の概念と十分関係づけられていないために、論旨が不明確になっています。

B: 現在の記述でも減点になるようなことはありませんが、他の改善によって分量が増加すると思われますので、その調整です。今回のように、「○○字前後」あるいは「○○ 字程度」というような字数制限の場合には、±1割(10 %)の範囲に収めます。具体的には 270 字以上 330 字以下で書く、ということになります。
最終的に制限字数違反にならないのであれば、現在の記述を残しても構いません。ただし、その場合には①日本では個人を抑圧するような政府がないこと、②何事に関しても少数派が生きにくいこと、を論証しなければなりません。「説明」を求められているのですから、論拠のない印象や思いつきを解答しますと、それ自体減点の対象になります。

C:LGBTは、だいぶ一般化していますが、それでも他の略語と誤解される可能性があります。「性的少数派」といった概念を補い、誤解の余地がないようにしましょう。
 なお、横書きの場合アルファベットやアラビア数字は1マスに2字ずつ(ワープロソフトの場合、半角文字)書く方が一般的です。1マスに1字(全角)でも減点にはならないでしょうが、字数の節約になりますね。

D:合格圏にならなかった最大の理由は、この部分が設問の要求に正しく対応していないことです。LGBTが設問の要求に対応しているのであれば、①政府による抑圧は(ほとんど)ないこと、②世間・世の中・社会が圧力をかけていること、の2点を示す必要があります。確かに、現在 LGBTの人たちを公権力が施設に強制収容したり、入院・通院を強要する、といったことはありません。また、不動産賃貸を断られる、町内会など地域組織への参加を断られる、など公権力以外からの抑圧は存在します。
 これ以外でも構いませんが、いずれにせよ解答者の用意した「具体例」が①②を満たすことを答案で示してください。

E:大きく取り消し線をしましたが、ここまでの改善、特にA・Dと矛盾しないよう、見直しが必要です。ここで、誰が「良心に従う」ことで、どのような「抑圧」「圧力」から「自由」になるのでしょうか。Aの改善で誰が、という主体が確定しますし、Dの改善結果と「自由」の関係付けも必要になるでしょう。
 以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。

問2
 最大の問題点は、一部ですが設問の要求に応えていないことです。設問では課題文②③ を「読み」とありますが、課題文③に対する言及はほとんどありません。また「問1での論点を踏まえつつ」に対応する記述もありません。課題文の内容紹介=要約と、問1の解答に対する言及をするだけで、おそらく100字以上の字数増になるでしょう。
 さらに、これは具体的な該当箇所で詳しく述べますが、課題文③は課題文②の抱く危機意識に対して懐疑的・否定的です。そうしますと課題文②③への言及は、単にその内容紹介を独立して行うだけではなく、その対立点に対する解答者の考えも述べる必要があります。
 以上の改善をしますと、単純計算でも制限字数の上限を超えてしまいます。1200字程度という制限字数に対しては、前後一割、1080字以上1320字以内に収めなければなりませんので、重要性の低い記述は割愛して、字数調整をする必要があります。
 あるいは課題文の無視は、初歩的なミスではありますが、躓く方が少なくありません。確かに、高校段階では、他者の見解を踏まえた議論をする機会がほとんどないので、やむを得ないことと言うべきなのでしょう。しかし、(小)論文になるか、単なる感想文になるかの大きな分岐点ですので、ミスをしないようにしてください。
 なお、課題文の内容紹介が詳細になりますと、それに対応して解答者独自の見解も再検討が必要になるでしょう。

(添削コメント)

[解答は省略]

A:問1のAと同じく分量調節が主な目的です。確かに現在の答案は制限字数を大幅に残していますが、おそらく改善の過程で、今度は制限字数超過の可能性が出てきます。最終的に字数に余裕ができれば残しても構いませんが、いずれにしても設問の要求・課題文の内容との関係が薄く、重要性の低い部分です。

B:現在の記述でも減点にはなりませんが、他にも言及すべき課題文がありますので、それとの表記を整えました。

C:この部分、課題文①の見解なのか、解答者独自の見解なのか曖昧になっています。小論文に限らず およそ論文においては、、資料その他、「他者の見解」と「論文筆者の見解」が明確に区別されていなければなりません。そうでなければ、単に「課題文が読めていない」という減点だけではなく、最悪の場合、盗作・剽窃と判断されかねません。今回、一定の配慮はしておいでですが、やや不十分です。
 例えば、*のような記述を補うことで、課題文の見解に当たる部分を明確にしましょう。 また、現在のままですとこの段落全体は 400 字に渡って課題文②の見解を紹介しているように見えます。Dの改善などで課題文③の内容も紹介することになりますと、実に答案の半分が課題文の内容紹介であり、「あなたの考え」は、半分しかないことになります。これを避けるためにも、この段落は、途中に解答者の見解・コメントを差し挟まずに、
課題文②の見解だけを短い 1 段落にまとめましょう。そして、Eの部分で、課題文①③と併せて、課題文に対する解答者の見解をまとめましょう。

D:冒頭でも申し上げましたが 課題文②の見解に対して、、課題文③はかなり懐疑的です。
 例えば ②が協調する個人化(personalization) の危険性に対して ③の第6段で、return tounpersonalized Web ……とするなど否定的な議論をしています。
まずは、1 段落使って、このような③の②に対する批判を整理=要約しましょう。
E:ここまでの改善で、課題文②と③の見解が整理できたと思います。そうしますと、少なくとも課題文③は「ネット社会」が「自由を抑圧する社会」だとは考えていません。ですから、**のように「明白だ」と考えるのなら、その論拠(理由)を示す必要があります。
なお、ここで設問の要求する「問1での論点を踏まえ」る必要性が出てきます。解答者が「自由を抑圧する社会」として、問1で誰の、どのような自由を、誰が、どのように抑圧しているのかです。
 課題文②③ともに、抑圧の主体を国家と考えていません。ここでの議論は、情報の選別が、企業ないしそれが開発したアルゴリズムによって行われていることです。
 そもそもこれが、②のいうとおり自由への脅威なのか、③のいうように大した問題でないのか、解答者の見解が問われます。さらに、このときの自由とは①のいう「ソーシャル・タイラニー」に当たるのでしょうか。実は、この点が課題文③による課題文②批判のポイントにもなりますね。

E:大きく取り消しをしましたが、ここまでの改善と対応して、全面的な再検討が必要になります。
 まず、現在の記述は基本的に課題文①②の見解や事例を受け入れていると思われますが、 ③は無視しています。まずは③の見解をどう把握し、それに対して解答者はどう考えるのかを明確にしましょう。
 その上で、③の見解を否定する、ないしは無視してもよい、という議論ができたのであれば、この部分の記述はかなりの程度生かせるかもしれません。しかし、③の議論を認めざるを得なくなりますと この部分は大幅な書き直しが必要になります。特に *部分は、Dで指摘した③による②批判をどう考えるかで、議論が全く変わってくる可能性があります。
 以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。結局、課題文①②③の見解を、解答者独自の見解とは区別しながら、正確に要約して答案に盛り込む、という基礎作業が不十分なために、全面的な再検討が必要になってしまいました。

 逆に言えば、この点を改善すれば、合格圏となるのは難しくないはずです。


京都大学小論文対策室へ戻る