京大添削コメント例[経済学部]15年

このコメントは、WIE小論文navi添削講座「京都大学小論文」で実際に行われたものです。


●京大経済学部特色入試を担当いたします西田と申します。よろしくお願い申し上げます。
 さて京大経済のサンプル問題、というよりは過去問に挑戦された、手応えはいかがでしたか。まず課題文が、本年の場合A4で13ページもあります。しかも、その内容は相当に高度であり、高等学校の授業で一般的に取り上げられる水準を大きく超えています。これを読むだけでも大変だったでしょう。また、各設問の制限字数を合計すると、2800字にもなります。これは、サンプル問題に限らず、京大経済論文Ⅰの出題全てにいえる特徴です。日本の大学入試で課される小論文としては、最も難しいものだったといえます。
 本年の課題文は、「ホモ・パチエンス」を巡る議論です。哲学的・精神分析学的な内容であり、経済学とは直接的な関係はないように思われるでしょう。しかし、社会と個人の関係という、経済学を含む社会科学全体の大前提に関わる議論です。また、〔A〕が個人の主体としての独立性や社会的な参与・価値に比重をおいているのに対して、〔B〕は他者との共感という情緒的な共同性に注目しています。いずれも現代の社会を考える上で、重要な視点です。
 このように例年、京大経済学部小論文試験では、経済学に限定した課題文はむしろ例外で、政治や文化を含む、社会理論全体が問われる方が一般的でした。サンプル問題としてこれを提示していることから、特色入試でもこうした視点を重視する傾向は続くと思われます。
 この特徴は、昨年京大経済の小論文入試枠が終了するまで一貫しています。もちろん、年度の変化はありますが、例外的で参考にならない過去問はありません。ご質問のように、サンプル問題と類似した過去問をお探しでしたら、手に入るものであれば何年のものでも構いません。特に新しいものであれば、ネット上や過去問集などで比較的簡単に入手できると思います。

 過去問分析はこのぐらいにして、ここからは答案に沿って検討して参りましょう。
 お送りいただいた答案は、誤字脱字や主語述語の不適応といった問題は少なく、解答者の国語力は十分だと申せます。また、設問1に関しては、設問の要求・課題文の内容ともにほぼ正確に把握しておられます。ここは、初回提出から合格圏と言えます。一部とはいえ、全く初めての提出で合格圏になる方は少ないので、この点では自信を持っていただいて良いと思います。しかし、設問2では課題文の内容把握に失敗しています。このため、後一歩でありますが、合格圏とは言えません。さらに設問3では、設問の要求に対応しない記述になっています。
 全般的な評価はこのぐらいにして、以下小問ごとに検討して参りましょう。

 答案に対するコメントは、以下にまとめてあります。ABC……の記号は答案のものと対応しています。なお、特にコメントのない修正は、単純な語句の誤りや、分量調整のためのものです。

設問1
 現在の記述は、いずれも課題文に対応する箇所があり、設問の要求する「要約」として誤りではありません。課題文の内容を超えた、解答者の解釈や評価を書いてしまい、「要約」の範囲を超えてしまう受験生も少なくないのですが、この点では採点上問題になる箇所はありません。
 また、課題文の重要概念(論点)も正しく抽出されており、その相互関係(論旨)も正確に再現されています。ギリギリですが合格答案と申せます。
 ギリギリと評価しましたのは、課題文の最重要概念(論点)は、正しく抽出されていますが、第2義的に重要な概念で、答案で触れるべきものが残されているからです。本年の出題に限らず、京大の小論文では、課題文が膨大であるとともに、「要約」や「説明」といった課題文の内容把握を問う出題に対しても、他大学と比べて多くの字数が配当されています。このため、課題文の最重要概念だけでは、制限字数が大幅に余ってしまい、また課題文の微妙な論旨を再現できなくなってしまいます。したがって、最重要概念だけではなく、いわば第2義的に重要な概念まで答案に盛り込む必要があります。
 ただ、第2義的な概念は数も多くなりますし、その選別の基準も急激に難しくなります。また、その関係=論旨も複雑であり、再現するには工夫が必要です。とりあえず気になった重要概念に優先順位を付け、答案の構成を考える際に、取捨選択することになります。
 そのとき、最も重視するべき基準は、設問の要求です。設問文が「○○について」といった形で論点を指定している場合には、それに従って選別していくことになります。今回の場合でいえば「意味の発見」がその基準ですね。
 しかし、これでも解決しない場合が少なくありません。特に設問文に論点の指定がなく、ただ要約せよとだけある場合には、解答者としては大いに悩ましいところです。ただ、これまでの受講生の答案と、受験結果を見合わせてみますと、この第2義的に重要な概念の選択に関しては、許容範囲がかなり広いようです。つまり見当外れでない選択ができており、論旨の再現が適切にできていれば合格圏の判定となっています。
 どうもすっきりしない説明で申し訳ないのですが、一般に要約問題は、小論文の中では例外的に一定の「正解」があるとされています。しかし、京大の小論文では、その幅が広いのです。ある観点で第2義的に重要な概念を拾った場合だけではなく、別の観点でもよいといえるのです。これについては、私たち添削者が過去の受験結果を基準に個々の答案に即して判断して参ります。
 もっとも、現在の答案は、制限字数をほぼ使い切っています。したがって、さらに第2義的に重要な概念を盛り込むためには、字数調整が必要です。より簡潔な表現にできる例を示しつつ、そこで生じた字数の余裕を用いて、どのような概念を盛り込めばよいか、ヒントを出していきます。
 細かい国語表現なども指摘しましたが、以上の点が改善のポイントになります。

(添削コメント)

[解答は省略]


A:課題文に対応する記述があり、また第2義的な概念ですから、このままでも問題はありません。しかし、私はDの概念群の方が「伝統」「価値」などより重要だと思います。Fの改善で字数調整が必要になるようでしたら、ここで調整するとよいでしょう。

B:この部分、前後の関係付けが不明確になっており、論旨がやや飛躍しています。大きな減点にはならないでしょうが、課題文の論旨構成=概念の関係付けに戻って、その正確な再現を試みてください。

C:「意味の発見」が設問の要求ですから、意味の存在は第2義的な重要概念ですね。A同様、Fの改善と合わせて、どの程度触れるか考えてください。

a:現在の記述でも減点にはなりませんが、ほぼ同じ概念の関係をより短く書くことが可能です。
 小論文を書き慣れないうちは、課題文の内容把握であれ、解答者の見解であれ、書くことが見つからない=分量不足の問題が深刻です。しかし、小論文を書く力が向上してきますと、今度は「書きたいことの過剰」に悩まされることになります。
 この対策は、基本的には構想のメモの段階で、盛り込むべき重要概念の優先順位を考えることです。しかし、文章の技術として「短く書く」能力もありますと、取り上げている概念が豊富で、かつその関係付けが精密な文章が可能になります。いわゆる深い考察を示すことになりますね。

D:A・Bより優先すべき、第2義的に重要な概念の候補です。課題文は、「ホモ・パチエンス」と「ホモ・サピエンス」との違いをのべています。そこで、「失敗」「成功」といった概念が使われています。また、「ホモ・サピエンス」と「ホモ・パチエンス」では、「アイダホの学生」や「囚人」の意味づけが異なることも述べています。
 一応、「苦しむ術を知っている」という形で、この概念群に一部触れていますが、なにをもって「意味」とするか、基準そのものが複数あることの指摘は重要でしょう。このことで、「意味の発見」が異なる次元で起きていることを指摘できますね。
 現在のままでも大きな減点にはなりませんが、まだ4行(80字)余裕がありますので、これを用いて、できるだけ言及するようにしてください。


 以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。

設問2
 設問1同様、「説明」が求められています。「説明」を要求されたときには、解答者独自の考えで課題文の内容を再構成する必要はありません。むしろ、このような再構成は、課題文の内容から逸脱する危険があります。課題文の論旨が極端に複雑でない限り、課題文の叙述に沿って、設問の要求(この場合なら「観点変更」)に関係する部分を要約していけばよいのです。
 このあたりの原則は正しく理解しておいでのようです。しかし、ここは合格圏とは申せません。
 その最大の問題点は、解答の制限字数を1割以上残しておいでなことです。WIEでは、制限字数の9割以上書くことが必要だと考えています。何割以上残すと減点になるか、ということについては、参考書や添削講座によってまちまちですが、形式的な問題と言うより、出題側が制限字数を設ける際には「解答に必要な議論をするにはこのぐらい字数が必要」と考えているはずですので、1割以上も字数が「余る」ということは、解答に必要な論点(=概念)を見落としている、あるいは概念の関係付けが不十分である可能性が高いからです。
 実際、今回答案では、最重要概念およびそれに関係する課題文の論旨に見落としがあります。具体的には、答案の該当箇所でコメントしますが、これに関連する記述を補いますと、大幅に字数が増えますので、半ば自動的に字数不足の問題は解消します。

(添削コメント)

[解答は省略]


A:〔B〕の「観点変更」に関する記述は、フランクルの見解を紹介している部分と、それに対する課題文筆者(鷲田氏)の見解を述べている部分があります。これは課題部の論旨=概念の関係として重要ですから、答案でも明示しましょう。

a:1文があまり長いと、概念の関係=論旨が読み取りにくくなります。私なら、ここで文を切ります。

B:設問1のaと同じです。簡潔にできる箇所を指摘しました。現在は制限字数を大幅に残していますが、改善によって字数が増えますので、その調整です。

C:これは、課題文の「観点変更」以前の状態だと思います。こうした自分が「何故生きるのか」「生きる理由」は、観点変更以前から存在するのです。
 観点変更とは、これは「人生から」「期待」するという観点から、「人生は彼らから」「期待」するへの変更が「観点」なのですね。
 この概念の関係を明確にしませんと、設問の要求に応えたことになりません。一応、*部分で関連する概念に言及していますが、Dの問題もあり課題文の論旨=概念の関係が明確ではありません。

D:Cと並んで、今回合格圏にならなかった最大の問題点は、この部分です。課題文では、フランクルの「観点変更」を紹介した上で、その問題点や限界を指摘しています。具体的には、課題文11頁で、「受難」「犠牲」などの概念を挙げて、「つらい」「息苦しい」といった概念で批判しています。これらの記述は、課題文〔B〕による「観点変更」の「意義」付けに他ならないでしょう。これは設問の要求に応える上で不可欠な重要概念であり、これが盛り込まれていませんと、致命的な減点になります。
  そして、こうしたフランクルの概念を批判した上で、それに変わる概念として、「なにかお手伝いできることはありますか?」という「軽いことば」を「対応」させています。ここで提示された〔B〕の筆者独自の視点が、波線部の考えに発展していくのでしょう。

E:大きく取消線をしましたが、ここは課題文の論旨を再現できていません。Dの問題と関係しますが、課題文では、まずフランクルの「観点変更」を消化した上で、Dのような批判・評価をしています。そして、それに続けて解答者なりの考えを述べていますが、この「ホスピタリティ」「共感」等に対して「観点変更」という概念を用いてはいません。
 しかし、この部分の記述ではAで指摘しましたように、フランクルの見解と〔B〕の筆者のそれとを明確に区別していないために、*の記述が〔B〕の筆者の見解も含むかのように記述されています。
 もちろん、「共感」「ホスピタリティ」などはフランクルの「観点変更」に対する批判という「意義」付けのためのものですから、設問の要求と対応はしています。しかし、現在の記述は、個々の概念(論点)は課題文と対応していますが、その相互関係(論旨)は大きく異なっているのです。
 なお、こうした論旨の再現に失敗しないためには、課題文と叙述の順番を変えず、重要概念を課題文と同じ順番に取り上げるとよいでしょう。


 以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。

設問3
 設問1・2とは異なり、「論じなさい」とありますので、解答者独自の見解が要求される設問です。ただし、課題文の内容理解が前提になりますので、設問1・2で失敗しますと、合格答案を書くのは難しくなります。
 ただ、設問2のEで指摘しましたように、〔A〕〔B〕それぞれの「ホモ・パチエンス」に対する理解・評価を比較することに不可欠な要素を、こちらでやや不十分な点はあるものの、答案に盛り込んでいます。設問2で失敗したにも拘わらず、こちらで取り返せたのは、解答者の基礎的な能力が高いことを示しています。
 しかし、せっかく設問2の失敗を取り返したのに、ここでは更なる失敗をしてしまいました。この答案では、〔A〕〔B〕それぞれの「ホモ・パチエンス」に対する理解・評価を比較したあと、設問の要求する「現代」の分析をしています。しかし、そこで主要な概念となっているのは「ホスピタリティ」であり、設問が要求する「ホモ・パチエンス」はほぼ完全に無視されています。このため、記述の大半が設問に対する解答になっていませんので、採点上の評価は極めて低くなります。
 以上の問題点を克服するためには、設問の要求=書けと要求されていることに遡って再検討し、全面的に書き直して頂くことになります。そのため、具体的な改善案ではなく、問題点の指摘と、考え方のヒントを示す箇所が多くなります。

(添削コメント)

[解答は省略]


A:設問1のa、設問2のBと同じく、より簡潔な表現の例を示しました。内容的な問題ではありませんので、最終的に字数に余裕ができるようなら、現在のままでも構いません。

B:設問2のaでも指摘しましたが、ここで文を切る方が、概念の関係=論旨が読み取りやすくなります。

a:反語を含め疑問形を多用しますと、概念の関係が読みとり難くなります。また、基本的に分量も余計にかかりますね。ここなども解答者の見解をストレートに表現した方がよいと思います。

C:今回合格圏にならなかった最大の原因は、ここで答案の最重要概念(論点)を「ホスピタリティ」として、設問の要求する「ホモ・パチエンス(は何を問いかけているのか)」に応えていないことです。
 確かに「ホモ・パチエンス」の意義を否定的にとらえ、それに対抗して肯定すべき概念を挙げる、という議論をしても合格圏の答案は可能です。しかし、その場合でも、あくまで「ホモ・パチエンス」を否定する議論が中心でなければなりません。今回のように対抗概念である「ホスピタリティ」を主題に論じたのでは、そもそも答案になっていない事になります。
 その前提として、解答者自身の「ホモ・パチエンス」・「ホスピタリティ」に対する評価をし、前者を否定して後者を推奨することを明確すべきです。*で課題文〔B〕がこの問題に対してどう考えているかは紹介されていますが、必要なのは解答者自身の基本的な立場を明示することです。

b:現在の表現で誤りとは申しませんが、(小)論文とは、基本的に解答者の「思考」を書くものですね。したがって、特に混乱のない限り「思う」「考える」といった表現は不要です。

D:大きく取消線をしましたが、Cの改善によって、この部分は全面的な見直しが必要になります。「ホモ・パチエンス」が「現代」にとって、有効でないこと・限界などを示す事例を探すことになります。現在の事例をそのまま使うにしても、「ホスピタリティ」の有効性を示すことは副次的に留め、「ホモ・パチエンス」から見てどうか、という位置づけにしなければなりません。
 ここがどのような事例として何が適切かではなく、どのような視点から取り上げるかが重要になります。「ホモ・パチエンス」に視点を据えた再検討をお願いします。

c:現在のままでも誤りとは申せませんが、横書きの場合アルファベットやアラビア数字は1マスに2字ずつ(ワープロソフトの場合、半角文字)書く方が一般的です。1マスに1字(全角)でも減点にはならないでしょうが、字数の節約になりますね。


 以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。


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