添削例:東京学芸大学(E類ソーシャルワーク前期:2019年)

●提出いただいた答案を拝読しました。設問が要求している論点について論述を展開できています。しかし肝心の論述に、確からしくない、または共有できない前提、誤謬推理、意味の取れない文章が混在しているため、論旨の一貫性を欠いています。したがって、残念ですが合格圏とは言えません。以下詳しく説明していきます。

■答案に対するコメントは、小問ごとに解説の後にまとめてあります。ABC・・・, abc…の記号は、答案のものと対応しています。なお、特にコメントのない修正は、単純な語句の誤りや、分量調整のためのものです。

(解答本文は省略)

(添削コメント)

a:不自然な表現です。「反論している」や「批判している」ならば意味は通りますが、たんに「指摘している」だけでは、何を指摘しているのか分かりません。適切な表現に改めて下さい。

b:段落が改められていないこともあり、どこまでが課題文の要約で、どこからが解答者自身の見解なのか分かりません。印をつけた箇所から解答者の意見の論述が始まると推測し添削を行っていますが、再提出では適宜段落を改めてください。

c:ここでどうして段落が改められているのか分かりませんでした。不要と思われるので、つなげてください。

A:共有できない前提です。人間にこのような本能があるという考えは、一般的に共有されている見解でもなければ、科学的知見でもありません。また、「近く似たものどうしが親近感を持ち、共通の習慣や文化ができ、国や言語が生まれた」という(これ自体疑わしい)考えからも導出できません。もしどうしてもこういった主張を行いたいのであれば、十分な論拠を提示してください。私としては、このような考えを論証するのは困難ですので、削除をお勧めします。

B:「したがって」という推論の帰結を表す接続語を用いていますが、推論が破綻しているため有効ではありません。「自分に近い者とグループをつくり、そしてそれ以外を排除しようとする」とのことですが、ここで言われている「近い」というのが類似性を意味するのか距離の近さを意味しているのかも曖昧です。
また、「障碍者が差別的な目を向けられてしまうのは~隔離された環境で育つからだ」とのことですが、むしろ逆に「差別的な扱いを受けているから隔離されている」とはどうして言えないのでしょうか? このように、因果関係の向きを決定するための議論も不足しています。(小)論文において論証が破綻・不足していることは評価の著しい低下につながりますので、注意して論を進めてください。

d:このままでは読みづらい印象を受けましたので、修正しました。

C:「知ること」と「理解」を異なる意味で用いているようですが、それぞれにどのような意味の違いをもたせているのか、読み取れませんでした。各々の語のここでの意味について、もう少し説明が欲しいところです。

D:内容に大きな誤りがあるわけではありませんが、これまでの議論とは異なる論点を唐突に提示しており、前後の議論との関連性が見えません。「遠くにいるひとに対する理解」と「正確な知識」との関連性について説明する議論を加える必要があります。

E:設問の趣旨から大きくずれているわけではありませんが、設問は対策案を求めているわけではないので、記述の優先度は高くありません。上記コメントの修正等で文字数が超過する場合は、この箇所を削除するとよいでしょう。

 添削は以上です。以上のコメントを参考にして、答案を修正してください。再提出をお待ちしています。