大学入試関連の情報を見ていますと、少子化によって受験生が減っているにもかかわらず、入試が易しくならない、むしろ難しくなっている大学や学部があるという話をよく目にします。WIEの受講生の中にも、昨年は予備校の模試などで高い合格確率と判定されていたのに不合格だったので、今年はWIEも利用して再挑戦するという方が増えています。
そもそも、よく言われる「少子化」は、大学受験生の規模に関してはこの数年は当てはまりません。リクルート進学総研の予測によれば、18歳人口は2024年の106.3万人から2025年は109.1万人、2026年は109.3万人と微増を続けており、本格的な減少局面に入るのは2027年以降とされています(注1)。受験生は減っているどころか、むしろ少し増えているのが現状です。
こうした受験生の絶対数の要因以外の理由からも、入試の難易状況には著しい二極化が進んでいます。日本私立学校振興・共済事業団の調査では、2025年度時点で私立大学の53%が定員割れに陥っている一方、千葉工業大学が2025年度入試で16.2万人、近畿大学が15.7万人もの志願者を集めるなど、大都市圏の大規模大学には依然として志願者が集中しています(注2)。地方の中小規模大学が学生集めに苦戦する一方で、首都圏・近畿圏のGMARCH・関関同立といった上位校では、学部や学科によるばらつきはあるものの、入試難易度は下がっておらず、部分的に難化の傾向すら見られます。旺文社『螢雪時代』編集部の予測も、私立大入試は「難関校へのチャレンジ志向」と「中堅校での推薦・総合型人気」とで二極化が進むとしています(注3)。
このような受験動向の背景にあるのは、単なる入試制度の問題ではありません。受験生の動き方、企業の採用のしかた、そしてAIによる雇用構造の変化という、性格の異なる三つの層の変化が重なって、上位校の入試を構造的に難化させていると考えられます。
一つめは、受験生側の変化です。地方から大都市圏の大学を目指す傾向が依然として強く、加えて共通テストが思考力重視へとシフトし、特に2026年度入試では平均点が文理ともに大きく下がりました(注4)。これにより、共通テストを回避できる私大上位校へと国公立志望者が出願先を広げる動きが強まっています。さらに推薦型・総合型選抜の拡大により、上位校の一般選抜の枠そのものが圧縮されていることも、競争を激しくする要因です(詳しくは別記事「上位校の入試が難化する三つの理由
― 都市集中・共通テスト・推薦シフト」で扱います)。
二つめは、企業の採用基準の精緻化です。いわゆる「学歴フィルター」は1970年代から存在する古い問題ですが(注5)、近年は採用早期化や書類スクリーニングへのAI導入とあわせて、その選別はむしろ精緻化しています。出身大学だけでなく大学入学時の入試方式(一般選抜か推薦型・総合型かなど)まで確認する企業も現れ始めており(注6)、受験生は志望校選びの段階から「就職を見据えた一定ライン」を意識せざるをえなくなっています(詳しくは別記事「採用現場で進む『学歴フィルター』の精緻化と入試方式の影響」で扱います)。
三つめは、AIの普及とジョブ型採用の拡大による、雇用構造そのものの変化です。米国では、生成AIの影響を受けやすい職種で若年労働者の雇用が相対的に減少していることが、スタンフォード大学の実証研究で示されています(注7)。日本でも、みずほフィナンシャルグループが事務職を10年で最大5,000人分削減する方針を示し、経済産業省は2040年に事務職で437万人が余剰になると推計しています(注8)。職務内容を最初から定めるジョブ型採用も大企業で拡大しており、「とりあえず採用して社内で育てる」モデルは確実に縮小しつつあります(詳しくは別記事「AIとジョブ型採用が大学選びに突きつけるもの」で扱います)。
このように見てくると、「少子化にもかかわらず大学入試が難しくなっている」というのは、入試制度だけの話ではなく、社会全体の構造変化を映し出す現象であることが分かります。大学入試の難易二極化は今後さらに進み、難関校・上位校に対しては、これまで以上に綿密な受験対策が必要になるでしょう。各高等学校が蓄積してきた受験データだけでは、適切な受験指導ができない場面も生じてくると思われます。
WIEでは、受講生の受験実績はもとより、各大学の入試情報を継続的に収集・分析して、受験指導に活かして参ります。
注
注1:リクルート進学総研「【全国版】18歳人口予測 大学・短期大学・専門学校進学率 地元残留率の動向 2024」 https://souken.shingakunet.com/research/2025/02/182024.html
注2:東洋経済オンライン「私立大学の半数が定員割れ、人気の二極化が鮮明に。学生の募集を停止する大学も増加中」(2026年2月) https://toyokeizai.net/articles/-/926286
注3:旺文社『螢雪時代』編集部「大予測!2025年一般選抜の難易変動はこうなる!?」 https://eic.obunsha.co.jp/analysis/2024/202411/
注4:河合塾 Kei-Net「共通テスト概況(2026年度大学入学共通テスト特集)」 https://www.keinet.ne.jp/center/analyze/common_test.html
注5:Wikipedia「学歴フィルター」(指定校制度が1970年代前半に国会で議論された経緯について) https://ja.wikipedia.org/wiki/学歴フィルター
注6:先端教育オンライン「総合型・学校推薦型入試と学力低下の課題にどうアプローチすべきか」 https://www.sentankyo.jp/articles/7ec7aa35-0c9c-44ec-bfd7-237a68f89ed2
注7:大和総研 新田尭之「生成AIが狭めかねない大卒ホワイトカラーのキャリアパス」(Brynjolfsson, E. et al. 2025
"Canaries in the Coal Mine?" Stanford Digital Economy Lab を引用)
https://www.dir.co.jp/report/column/20250924_012324.html
注8:ITmedia ビジネス「中間管理職は『中間経営職』へ AI時代、ホワイトカラーに問われる『役割再定義』」 https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2603/27/news014.html