添削例(実用論作文文章添削-昇進試験)

①設問の要求との対応に失敗している例

全体のコメント

 急行添削を担当する西田と申します。よろしくお願いします。
 最初に、答案の字数についてですが、出題には明示されていないようです。お申し込みが2口=2400字以内ですので、それを基準に考えます。
 まず、通信欄でお書きいただいた件ですが、設問文の重要概念である【重要概念】とご自分の役割が関係づけられない、とのことですが、これは出題側からみますと、致命的な減点要素となります。厳しい言い方になりますが、出題側=経営側が重視している問題を通常業務の中に位置づけられないのですから、ご自身の担当業務が、全社的な視点でどのような意味を持つのか理解していないことになります。これでは、後輩や部下の指導に際して、作業手順と言った機械的な指導は出来ても、業務の意味などは教えられないからです。
 もっとも、所属部署・担当業務によっては、全社的な方針との関係付けが難しい場合も少なくありません。ただ、それでも全社的な方針・目標とご自身の業務がどう関係しているかを考えることが、社内で背金にある地位に就く=昇進・昇格の絶対条件になります。
 また、経営陣も全社的な方針を設定する際、出来るだけ社内の全部署に関係させようとします。そうでなければ全社的な方針とは言えませんし、関係が無いと判断した部署では、社員の士気が下がってしまいます。
 御社ではその点を留意して、【重要概念】をさらに3つの側面に分けておいでですね。
【重要概念A】現場のニーズに応えます。
【重要概念B】各人が能力を最大限に発揮します。
【重要概念C】未来の社会を切り開きます。
 逆に言えば、3つの側面に沿って【重要概念】を分析し具体化していけば、ご自身の所属部署・担当業務との関連づけが可能だと思います。

 ここからは、お送りいただいた答案を見て参ります。冒頭では厳しいことを申し上げましたが、御社に限らず全社的な方針の理解を前提とする出題では、皆さん苦戦しています。このような出題に対しては、設問文が使用している重要概念、とりわけ全社的な方針・目標・スローガンが、実際の業務ではどのような具体的課題となって表れるかを把握することが、設問の要求に応える大前提になります。しかし、多くの人は自分の担当業務に対して、所属部署内での位置付けは理解していても、全社的なそれは意識していない場合が少なくありません。お送りいただいた個人報告書で、「組織を見渡す視点」「極めて狭い範囲での取り組み」といった指摘があるのは、この問題と関係があります。
 そこで、まずは設問文に立ち返って、答案で答えるべきことは何かを核にしてみましょう。設問文の重要概念(論点)に①②③……の番号をつけてみます。
■ ①10年後の社内外の環境の変化を踏まえ、②組織の【重要概念】を具体的に述べよ。
■また、③AI(主任)役割としてそれを④伸長していくための方法を、⑤時間軸を明確にして具体的に書きなさい
 そうしますと、答案は次のような構成になるはずです。
1.解答者による①10年後の社内外の環境の変化の予測
2.①の予測の中で必要となる②組織の【重要概念】のための施策。「具体的に」とあるので、解答者の具体的な業務に関係する施策となります。
3.2,の施策の実現=④伸長していくための方法を述べます。このとき、あくまで解答者個人が③AI(主任)役割を果たす、具体的な行動です。しかもそれは思いつくままに羅列するのではなく、最終的に②が達成されるまでの段階を踏んで、すなわち、⑤時間軸を明確にして具体的に述べなければなりません。
 例えば、情報の集中・共有による効率化といった④伸長していくための方法であれば、次のような記述になるでしょう。
段階1:個別の業務案件毎の改善案を統一書式に整理してコンピュータに登録する。
段階2:非効率に気付いた社員は、登録されたデータベースか類似の事例を探し、迅速に 対策が立てられるようになる。
段階3:非効率に気付くたびに個別に対応するのではなく、データベースを解析することで非効率を産む自部署全体の業務慣行や手続きの不備を分析し、根本的な解決策を立てる。
段階4:自部署で非効率が生じる構造的原因を明確にし、他部署と共有することで全社的 な非効率の見直しを進める。
 ……
 といった具合です。さらに③AI(主任)役割として統一書式の作成、業務慣行や手続きの不備を分析、などががあるでしょう。その一方で、他部署と共有するために部署の長同士で会議を開くのであれば、それはAIより上位の管理職がすべきことになるかも知れません。
 
 さて、ながなが出題側の意図の確認、さらに設問文の分析から答案で何をどのような順番で書くかを考えてきました。現在の答案は、大枠ではこの構成に近いのですが、①10年後の社内外の環境の変化の予測が大雑把であり、さらにここで何をすることが②組織の【重要概念】になるのか、ほとんど考察されていません。
 したがって、単にご自身の所属部署で取り組んでいる事例を紹介しているだけで、それが設問の要求する④伸長していくための方法といえるのかどうか、考察されていません設問の要求に関係ありそうなそうな事例が並んでいますが、関係づけそのものが不十分なのです。
 以上の問題点を克服するためには、設問の要求=書けと要求されていることに遡って再検討し、全面的に書き直して頂くことになります。そのため、具体的な改善案ではなく、問題点の指摘と、考え方のヒントを示す箇所が多くなります。

 答案に対するコメントは、添削本文の後にまとめてあります。ABC……の記号は、答案のものと対応しています。なお、特にコメントのない修正は、単純な語句の誤りや、分量調整のためのものです。

(添削本文は割愛)

個別のコメント

A:設問文の重要概念①に対応する記述です。しかし、考察が不十分だと思われます。10年後には、ご自身の所属部署・担当業務に限っていろいろな変化が考えられると思います。以下、私なりに挙げてみます。
1)電気自動車の普及など動力システムの変化→6)環境負荷の軽減にも関連
2)自動運転など走行・操縦システムの変化
3)拠点向上の海外展開。中国→東南アジア→南アジア→アフリカ
4)労働力の変化:外国人労働者・高齢者再雇用・女性の進出
5)雇用形態の変化:働き方改革・勤務時間の柔軟化
6)環境負荷の軽減:生産の省資源化→低コスト化
 この他にもご自身の所属部署・担当業務から重視すべき①10年後の社内外の環境の変化があれば、メモとして列挙してください。
 次にこうした「環境の変化」が、②組織の【重要概念】にどのように関係するかですが、これに関しては、【重要概念】を【重要概念A】、【重要概念B】、【重要概念C】の3つの側面から検討します。
 例えば、1)2)は消費者という「現場」のニーズに応えるものですから、【重要概念A】の分野で【重要概念】となることに関係します。4)5)は労働者(従業員)も「現場」に含まれますので、【重要概念A】でもありますが、【重要概念B】の側面が強いですね。逆に【重要概念C】の観点から見ますと、1)6)は環境問題の点で、3)は発展途上国の経済向上の点で、「持続可能な社会」に貢献します。
ここまでが、設問に答えるための下準備です。②の組織が御社全体を指すのか、解答者所属部署を指すのか曖昧です。しかし、③AI(主任)役割、あるいは⑤時間軸を明確にして具体的とありますので、基本的に解答者個人の行動が問われています。そこで、下準備で挙げた①10年後の社内外の環境の変化によって必要になる、②組織の【重要概念】は、基本的に解答者の所属部署・担当業務に関係する分野に限定してよいことになります
 以上から、答案の冒頭は、例えば次のような構造になるでしょう。
第1段落;①10年後の社内外の環境の変化
 1)~6)で挙げたような事例で、御社が対応すべきものを挙げます。
第2段落:②組織の【重要概念】
 第1段落で挙げた「変化」の中で、解答者の所属部署・担当業務に関係し、かつ【重要概念】に関係する項目を挙げる。その際、なぜをそれを取り上げるか=所属部署・担当業務との関係を説明する。
 これ以外の構成案でも構いませんが、まずは設問の要求に対応した構成と内容にしましょう。
B:大きく取り消し線をしましたが、現在の記述が適切かどうかは、Aの改善次第です。Aで、現在の答案と同じ「環境変化」を指摘し、かつそれが解答者の所属部署・担当業務と関係付けられれば、この部分は生きてきます。
 逆にAで取り上げる「環境の変化」が現在と変わってきますと、大規模な書き直しになります。
C:この部分は、ABの改善次第です。ただ、現在のBを前提にした場合、概念の関係付け=論旨の構成が不十分です。例えば、※※※の「新たな素材や技術を提案し、顧客のニ-ズに応え」は前段落の**新材料や技術の供給と対応してます。同じく、※※※※ビジネスを創ることは、*新規事業やサービスを創る「提案型ビジネス」と関係するでしょう。しかし、※取引先や海外現地法人とのネットワ-クや、※※多岐にわたる商品知識の強みは、これに対応する「環境の変化」が存在しません。したがって、答案の論旨から逸脱した概念(論点)であり、設問の要求との関係づけのない議論になっています。こうした記述は論旨の混乱・破綻として、大きく減点されることになります。
D:Aでもコメントしましたが、設問の要求する「組織」の範囲が曖昧です。この曖昧さを避けるために、解答者の方で概念規定をするとよいでしょう。なお、これはあくまでも私が一般論として想定したものです。御社内で「組織」の範囲をどのように規定しているか、社内文書などでどう扱っているかを参照して、正確に規定してください。
E:ここも取り消し線をしましたが、Bと同じく内容それ自体の問題より、他の箇所との関係付け=論旨構成が不適切なためです。「軽量化」「エレクトロニクス」は、**新材料や技術の供給に対応しますので、※※※「新たな素材や技術を提案し、顧客のニ-ズに応え」とつながっています。そこで、「環境の変化」のなかで、【重要概念】を実現するために※※※を位置付けることが出来れば、この段落の記述はほぼ現在のまま活かすことができるでしょう。しかし、A・Bで※※※の位置付けをしない、あるいは現在と大きく変わるようでしたら、この部分は全面的な書き直しになります。
F:以下の記述は、ここまでの改善で取り上げている事例が、設問の要求と適切に関係付けられなければ、全面的な再検討が必要です。したがって、現時点では内容に踏み込んだ改善案は示すことが出来ません。国語表現などの細かいコメントが多くなりますことを、ご承知おきください。
G:Dと使用概念を統一しましょう。重要概念をみだりに言い換えますと、概念の関係=論旨が読み取りにくくなります。もっとも、長い概念が何度も繰り返し出てくるのは、読みにくい上に、制限字数のある試験答案では、字数の無駄です。このあたりのバランスに留意してください。
H:段落を改める際の原則は、あくまでも「書き込んだ内容」=「書く前に頭の中で整理した視点や問い」が変わる箇所で入れる、と心得てください。無意味に改段するのは、読み手が文の論理を把握するのを妨げ、文の評価を下げますので有害です。また文脈が大きく転換しているにもかかわらず、段を改めないのは、同様に有害です。
 なお1段落は150字程度とするのが効果的であると、経験的に分かっています。これは形式的な問題ではありません。この制限を課すことによって、適度に改段しつつ、無用な記述を行わないようになり、読み手に理解しやすい文章が書けるようになります。文意の明瞭化と構成の容易化に、その効果は大きいですから、段落の字数をこのようにするようにしてください。
I:所属部署ではごく一般的な略語なのでしょうが、読み手=採点者への配慮に欠けます。特に昇進・昇格では、自部署以外の人が採点者になりますので、彼(女)らに理解できない語を使うのは、減点の対象になります。特に、管理職に昇進後は、他部所と連絡・調整が重要な仕事になりますので、自部署内のみに通用する略語や隠語を使うのは、禁物です。
 もっとも、社内報など全社員を対象にしている文章で使われている語であれば、使用しても構わないとは言えます。それでも初出位置では()内に正式名称を示すなどの配慮をするとよいでしょう。
J:この「他の方」は、どのような範囲を想定しているのでしょう。またそれと関係しますが「巻き込む」ことは、「AI」の「役割」なのかどうかも明確にしてください。
K:Jと同様の問題です。「AI」の「役割」といえるのでしょうか。また、御社の「AI」が部下を配置される管理職なのか不明ですが、部下ないしは後進の指導は「役割」ではないのでしょうか。個人としての業務遂行やそのためのスキルについては詳しく述べておいでですが、それが③AI(主任)役割として、あるいは④伸長していくための方法として妥当なのか、私には疑問です。あるいは、●から③として行動するおつもりなのでしょうか。そうであれなら、どの時点で「AI」に昇進するのか、⑤時間軸を明確にして具体的に記述してください。
K:このような議論をするのであれば、Aで「【重要概念C】=各人が能力を最大限に発揮します」に言及しておく必要があります。
                                        
 以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。まずは、設問文にある【重要概念】(ABC)の視点で所属部署・担当業務を見直してください。

西早稲田教育研究所
担当 西田京一

 

②論旨構成が適切になされていない例

全体のコメント

●添削を担当する中島です。よろしくお願いします。

●弊社WIEでは、優れた小論文の条件を、次の4項目にまとめています。 
(ⅰ)設問の要求に的確に応えている。
(ⅱ)整理された形で議論が展開されており、論旨が一貫している。
(ⅲ)答案の内容が、踏み込んだものになっており、説得力がある。
(ⅳ)修辞が優れている。

 上の項目ほど優先順位が高く重要で、例えば、項目(ⅰ)で大きく失敗していると、項目(ⅱ)・(ⅲ)・(ⅳ)がいかに優れていても、採点対象外(=0点)の答案となります。
 そこで、優先順位の高い項目「(1):設問の要求に応えているか」と「(2):論旨の一貫性」の観点から、まずは、答案を評価して参ります。

●提出していただいた答案が、設問の要求に応えているか検討するためには、設問を分析して、正しくその内容を理解しなければなりません。設問の骨格は、次の三要素となり、その三要素の説明と、その相互関係を示すことが重要となります。

 大状況 ―― 業務で重要なこと ―― 昇格後の行動

 より具体的に説明すると次のようになります。
★三要素の説明
(1):<「大状況」について> 
 御社を取り巻く環境変化の中で、激しいものを取り上げてください。

(2):<「業務で重要なこと」について>
 現場の実態に即したものとして、解答者の業務で最も重要なものを提示してください。

(3):<「昇格後の行動」について>
 昇格後に、周囲と協調してどのような行動を取る予定か説明してください。また、その際には、具体的な記述により、【昇級後の職階】に求められる複数の役割について、なるべく多くの役割をこなすことをアピールしてください。

★三要素の関係の説明(=論旨に一貫性を与えるために必要)
(4):<「大状況」と「業務で重要なこと」の関係>
 解答者が取り上げた「業務で重要なこと」が、「大状況(=御社を取り巻く激しい環境変化)」と、どのように関係しているか示してください。この項目について条件を満たした論述を成功させるには、「業務で重要なこと」と関係の深い「大状況」を、あらかじめ厳選して提示しておくことと、「業務で重要なこと」と「大状況」の関係を示す説明能力が求められることになります。

(5):<「業務で重要なこと」と「昇格後の行動」>
 解答者の「昇格後の行動」が、「業務で重要なこと」にどのように貢献する見込みかを説明してください。

※ここまで、設問の分析を行いました。

●上記の5項目について、答案の内容を評価すると、次のようになります。

(1)→○
 「自動運転や駆動方式の変更」を、「大状況(=環境変化)」として説明しています。この環境変化は、御社に限定されず、自動車業界全体に大きな影響を与えるものです。ただし、仮に後の議論にうまくつなげる方法が浮かばないのであれば、別の「大状況(=環境変化)」に変更した方が良い可能性があります。

(2)→△
  解答者は、「業務で重要なこと」として、「生産マスターの設定業務をタイムリーかつ正確に行うこと」及び、「商品開発プロジェクトの推進」の二つを挙げています。ただし、制限字数を考慮すると、「業務で重要なこと」を一つに絞った方が良いでしょう。不可能とまでは断言できないものの、相当に論文作成能力が高くないと、「業務で重要なこと」を二つ挙げて、設問の要求を満たした答案を、制限字数内でまとめるのは、困難です。
 仮に私が答案を作成するなら、「商品開発プロジェクトの推進」を中心に議論をまとめ、その一部として、「業務の自動化推進」に言及するようにします。

(3)→×
 設問は、昇格後(=未来)の行動計画を説明することを求めており、過去の行動を説明することは求めていません。提出していただいた答案は、過去の行動の説明に相当の字数を割いており、大きく減点されます。
 なお、【昇級後の職階】に求められる複数の役割についてですが、これについては、ここでは細かく検討しません。後ほど、検討します。

(4)→×
 解答者が取り上げた「業務で重要なこと」が、「大状況(=御社を取り巻く激しい環境変化)」と、どのように関係しているか、読み手には全く理解できません。解答者が取り上げた「環境変化」は、解答者が注目した「業務で重要なこと」と結びつけにくいので、できれば別の環境変化を挙げたいところです。ただし、両者を結びつけることは不可能ではありません。
【答案骨子例】
 自動運転や駆動方式の変更といった、当社を取り巻く激しい環境変化により、膨大な開発費が必要となっており、当社の経営を圧迫している。この状況下で当社が生き残るには、既存事業を従来以上に徹底的に効率化して収益を得ることが必要である。既存事業の効率化の対象には、私が担当する「商品開発プロジェクトの推進」の業務も含まれる。この業務で重要なことは、開発期間短縮と、車両製造でより多くの利益を確保できる仕組み作りである。
★注):開発期間短縮→周囲との協調が必要 / 車両製造でより多くの利益を確保できる仕組み作り→RPAによる業務の省力化

(5)→△
 昇格後の行動計画が今一歩抽象的で具体性に乏しいため、昇格後の行動が解答者が取り上げた「業務で重要なこと」に、強く貢献するとまでは、言えません。昇格後の行動計画をより具体的に説明すれば、この問題は解決できるはずです。

※ここまでの答案内容の分析から、解答者は設問の要求を正確に理解しておらず、また論旨の一貫性が確保されていないことが明確となりました。

●続いて、項目(ⅲ)の答案の内容の説得力について検討します。ここでは、【昇級後の職階】に求められる複数の役割を中心に考えてみましょう。添付していただいた資料を参考にすると、次のようになるでしょうか。

★意識・姿勢規準
・グローバルでの経営環境変化と競争を常に意識し、業務目標・課題の達成に強いこだわりを持つ。
→解答者は、グローバルな経営環境変化である「自動運転・駆動方法の変更」を掘り当てています。この環境変化を、解答者が取り上げる「業務で重要なこと」と結びつけて議論できれば、等級規準が求める意識・姿勢の条件を満たすことになります。

・他部門の業務に関心を持ち、自分との関連・影響を常に念頭に置きながら、三現主義・PDCAに基づき、スピード感を持ち、粘り強く主体的に行動する。
→提出していただいた答案でも、他部署との協調に言及があるものの、等級規準が求める意識・姿勢の条件を満たしていることを、強くアピールするためには、協調をする上での注意点にも言及すると良いでしょう。具体的には、これまでの他部署での協業でうまくいっていなかった点を改善することや、他部署との協業がうまくいっていることを、よりうまく活かすにはどうすればいいかを検討するといったことです。
 他部署の業務に関心を持っていないと、具体的なアイデアは出てこないので、部外者である私には、これ以上詳しく説明することはできません。

・キャリアパスを意識したうえで、自己の能力を向上させるために必要な知識・スキルについて自ら学ぶ
→これには、専門職としての知識・スキル(例:RPAプログラムの作成スキル)もあれば、管理職としての知識・スキル(例:コーチングのような人材育成のスキルや、部下に気持ちよく働いてもらえるような職場の環境整備により、担当部署が成果を上げるようにするノウハウなど)もあります。
 提出していただいた答案は、専門職として新たに学ぶ知識・スキルに言及がなく、また管理職としての知識・スキルにも言及がありませんでした。専門職と管理職の双方の視点で、知識・スキルに言及する必要まではないものの、専門職と管理職のどちらかの視点では、新たに習得する予定の知識・スキルに言及したいところです。

★能力規準
・必要知識:担当業務についての専門知識に加え、関連業務の一般的知識がある。
→協業する他部署の業務を簡単に紹介することで、この条件を満たすことができます。これに対して、提出していただいた答案は、「前工程、後工程の部署」との記載があるだけなので、関連業務の一般的知識があるのかどうか、読み手は疑うことになります。

・専門スキル:判断を自律的に臨機応変に行い、実用価値の高い新しい企画を十分に打ち出すことができる。
→提出していただいた答案は、「新しい業務の自動化案を企画」との言及があるものの、これが実用価値の高いものなのかどうか、読み手は判断できません。後で手直しがあっても構わないので、現時点で考えている「素案」や」「試案」を、答案の中で説明すると良いでしょう。具体的には、どのような意味でその企画が新しいのか、自動化の対象となる業務領域の変化や、自動化の対象となる定型業務の変化の観点から説明すると良いでしょう。

・様々な価値観や強みを持った人々と協調し、多様な利害関係者の意見に耳を傾けることができる
→利害関係者には、部下や上司、関連部署の者、取引先の企業の者といったものが含まれます。周囲の人々に関心を持っていないと、この項目で優れた内容の答案を作成することはできません。技術者は一般に、対人関係力がそれほど高くないと思うのですが、人並みの対人関係力があることは、示したいところです。例えば、部下の得意不得意や専門性に言及すること、あるいは、関連部署からの要望に言及すると良いでしょう。関連部署からの要望については、後工程の部署が業務をしやすいように、解答者の所属部署がどのように業務を遂行すべきか、といった視点で論じることもできるでしょう。

・組織目標や課題解決に向け、メンバーと丁寧なコミュニケーションを通じて意識を高め動機づけすることを意識できる。
→部下の戦力化に関する言及です。提出していただいた答案では、「習得したRPAプログラムの作成スキルを後輩へ継承」とあり、部下の戦力化に言及があるものの、「動機付け」の具体的方法に言及がありませんでした。これは一例ですが、業務の自動化にどのような意義があるのか、部下(メンバー)にわかるように説明することが、「動機付け」にあたります。

・受け取った経営及び関連する情報を咀嚼して、自己の業務に関連できる。
→御社の中期計画や、最近の社長訓示と、解答者の業務の関連を説明できるのが好ましいと申せます。御社を取り巻く激しい「環境変化」を説明する際に、御社の中期計画を参考にし、また、御社の中期目標が言及する重点項目と、解答者の業務の関係を考察するようにすると良いでしょう。
 答案では組織目標として、「業務の自動化推進」がありますが、これは、御社の中期計画とどのような関係になっているでしょうか?御社の中期計画を今一度熟読すれば、「業務の自動化推進」に、御社の中期計画が言及していることを発見するかも知れません。また、「業務の自動化推進」にどのような意義があるのか、御社の中期計画の中で説明しているかも知れません。

※ここまで、答案の内容について言及しました。

●最後に、項目(ⅳ)の修辞(=文章表現の技術)についてです。ここまでに検討した三項目、つまり、「(ⅰ)設問の要求に応えること」・「(ⅱ)論旨の一貫性」・「(ⅲ)答案の内容の説得力」と比較すれば、「(ⅳ)修辞」は、優先順位が低いものの、読みやすい文章とするには、「(ⅳ)修辞」も優れている方が好ましいと申せます。
 「(ⅳ)修辞」については、答案に沿って具体的に説明した方がわかりやすいので、以下で説明します。なお、「(ⅳ)修辞」について細かく問題を指摘すると、答案の水準を向上させる上で、優先順位の高い項目がわかりにくくなるので、今回は、ザックリとした「(ⅳ)修辞」の指摘で済ませます。修辞の問題点に気づいていても、あえて指摘しない箇所が多くあるのですが、この点はご了承ください。

●以下では、答案に沿ってコメントします。

(添削本文は割愛)

個別のコメント

A 設問が要求する、「大状況(=御社を取り巻く激しい環境変化)」と、「(解答者の)業務の重要なこと」に言及している点は、評価したいところです。ただし、「大状況(=御社を取り巻く激しい環境変化)」と「(解答者の)業務の重要なこと」が、どのように関係しているか一切説明がないため、論旨に一貫性がないとして大きく減点されます。
 修正の仕方の例は、先に【答案骨子例】として説明したので、参照してください。

B 「(解答者の)業務の重要なこと」の二つ目を提示しています。
 ただし、制限字数を考慮すると、「業務で重要なこと」を一つに絞った方が良いでしょう。不可能とまでは断言できないものの、相当に論文作成能力が高くないと、「業務で重要なこと」を二つ挙げて、設問の要求を満たした答案を、制限字数内でまとめるのは、困難です。
 仮に私が答案を作成するなら、「商品開発プロジェクトの推進」を中心に議論をまとめ、その一部として、「業務の自動化推進」に言及するようにします。

C 過去の行動を説明することを、設問は要求していません。こうした、設問の要求から外れた記述が増えるほど、答案の評価が低くなります。既にRPAを導入したのであれば、RPAを導入するだけでは、解決できていない業務上の課題を、最初から取り上げて論じるべきでしょう。

D 昇格後の行動計画を述べています。「【昇級後の職階】に求められる役割」について、複数の項目に言及しようとした努力は、評価したいところです。ただし、ほとんどの記述が、形式的な言及にとどまっており、議論の内容に説得力がありません。できる範囲で構わないので、より具体性を高めた議論とすることで、説得力を高める工夫をしてみてください。なお、具体性の高め方については、先に説明した通りです。

a 実用文に「です・ます」の文体(敬体)を用いてはいけません。なぜなら字数を多く必要とし、述べるべき内容が薄くなるからです。「だ・である」の文体(常体)に書き改めて下さい。なお文体の不統一はもっといけません。
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 以上のコメントを参考にして、再提出をしてください。

西早稲田教育研究所
担当 中島泰平