慶応SFC添削コメント例[総合政策]14年

このコメントは、WIE小論文navi添削講座慶應SFC小論文で実際に行われたものです。


 本年度の出題は、設問の形式としては、前年度と大きく異なるものの、与えられた資料を読み比べて分析することを要求している点では、総合政策らしい出題だと申せます。
 出題背景として「歴史学とは何か」という根源的な問いがあるのですが、それについては、テキストの解説でやや詳しく説明しているので、是非とも参照ください。
 これは蛇足ですが、添削者は高校時代歴史が苦手科目で、「歴史=暗記」だと誤解していました。私と同じように、歴史の勉強(=歴史学)を誤解して、個別の歴史的事実を正しく知ることを歴史の勉強(=歴史学)だと思い込んでいると、歴史学における「解釈=歴史的事実の相互関係の分析」の重要性に気づくことができず、資料2が果たして何を論じているのかなかなか理解できないかも知れません。さらに、資料4の記述がゴチャゴチャしているという印象を持つだけで、資料の内容を深く分析できないかも知れません。
 一方で、歴史(学)における「解釈」、あるいは、歴史的事実の「因果関係」や「流れ」が重要であると既に知っていれば、資料の内容もすんなりと頭に入ってきやすいと思います。確かに、小論文では、一般教科の細かい知識が問われることはほとんどありません。しかし、公民科や、歴史(世界史・日本史)の勉強が捗っていると、総合政策学部の小論文が解きやすくなります。

 提出していただいた答案を拝見しました。
 まず問1については、正しい手続きを踏んで、答案を作成しているものの、資料の分析が甘いため、後一歩合格圏には至っていません。なお、資料の分析の甘さが、問2の解答に悪影響を与えています。
 次に、問2についてですが、設問の要求及び資料の分析が不十分です。設問は次のふたつに言及することを要求しています。
(1)「中国社会の変化」の説明の仕方の違い
(2)「中国をとりまく東アジアの国際関係の変化」の説明の仕方の違い
 提出していただいた答案は、(2)に全く触れていない点が、大きな問題となります。一方(1)については、答案の中で触れられているものの、問1を踏まえた議論になっていません。
 確かに、この問2は、相当の難問であり、実際にSFCに合格した受験生を含めて苦戦したことでしょう。しかし、問1の資料分析が深ければ、問2で設問の要求に応えた合格答案を作成することは不可能ではありません。

 最後に、問3についてですが、形式的には設問の要求に対応した答案を作成しています。ただし、論証が甘いので、WIEの基準ではあと一歩合格圏には至っていません。

 それでは、提出された答案に対して具体的な改善コメントを記していきましょう。これを参考に、再提出に取り組んでください。
■ 答案に書き入れました赤字が改善すべき点です。abc……の記号に対応するコメントは下段に記入してありますので御参照ください。記号のない箇所については、単純な誤記や分量調節のためのものです。

問1
 資料1と資料2の比較を行い、学説の違いを説明することが求められています。正しい手続きを踏んで、答案を作成しているものの、資料の分析が甘いため、後一歩合格圏には至っていません。なお、資料の分析の甘さが、問2の解答に悪影響を与えています。



a 大事な指摘なのですが、似たような話を繰り返ししています。より簡潔にまとめたいところです。
【答案例】
 19世紀から20世紀にかけての中国社会の変化について、資料1は、「西洋の衝撃」と「中国の反応」の枠組みの中で議論している。一方で資料2は、「西洋の衝撃」と「中国の反応」以外の多様な視点にも注目している。資料2が新たに注目しているのは、・・・。

b 答案a部分に字数を割きすぎてしまった関係で、資料2が新たに注目した視点を紹介する十分なスペースがなくなってしまいました。

c 日本語として意味が通じません。
 関連する資料の記述は次の箇所でしょうか。
・第一に、このアプローチは西洋に関係のない事象、もしくは希薄な関係しか持たない事象を検討しようという真摯な努力に、水を差す結果となる。

 私なりにこの記述を解釈すると、「西洋と関係ない事象もしくは希薄な関係しか持たない事象も検討すべき」ということになるでしょうか。

d これは資料2の重要な指摘です。ただし、注意しておきたいのは、「社会的・政治的・経済的次元での検討」が指すのは、中国社会・中国政治・中国経済についての検討という意味であり、西洋社会・西洋政治・西洋経済という意味ではないということです。このように解釈しておかないと、資料2の筆者が、これまでの研究(資料1に示された考え方)を、中国の演じた役割を、受動的ないし、反発的なものにすぎないとする前提があったと、批判したことを理解できていないことになってしまいます。

※資料2が新たに導入した視点について、ここで検討してみましょう。
・第二に、逆に西洋に関係した事象については、それらの事象が同時にいくぶんかは――時としては主に――中国内部の諸力に対する反応であった場合であっても、もっぱら「西洋の挑戦に対する中国の反応」として片付けてしまう傾向がある。
→(私の解釈)西洋に関係した事象でも、中国内部の諸力に対する反応の視点から精査すべき

・このような見解を踏まえれば、19世紀における中国と西洋の出会いを研究するものにとっての重要な課題とは、中国の文化変動と社会変動という、より長期的文脈の中にこの出会いを位置づけることである。
→中国の文化変動と社会変動の中に19世紀の中国と西洋の出会いを位置づけるべき
 資料2が新たに導入した視点としてどのようなものがあるかを複数紹介することで、資料を深く丁寧に分析できていることを示せます。


問2
 設問は次のふたつに言及することを要求しています。
(1)「中国社会の変化」の説明の仕方の違い
(2)「中国をとりまく東アジアの国際関係の変化」の説明の仕方の違い
 提出していただいた答案は、(2)に全く触れていない点が、大きな問題となります。一方(1)については、答案の中で触れられているものの、問1を踏まえた議論になっていません。
 確かに、この問2は、相当の難問であり、実際にSFCに合格した受験生を含めて苦戦したことでしょう。しかし、問1の資料分析が深ければ、問2で設問の要求に応えた合格答案を作成することは不可能ではありません。



a 設問の要求と関係ない記述なので、削除してください。設問は、資料3と資料4の違いを説明することを要求しています。

b 資料3と4の違いの指摘としては、その通りです。しかし、問1を踏まえた記述が不可能であるため、今回は取り上げるべきではありません。解答者が述べている「社会的背景」は、「西洋社会」の検討です。「西洋社会」の検討は、「西洋の衝撃」の背景分析に過ぎません。資料1と同様に、「西洋の衝撃」と「中国の反応」の枠組みの中での議論なのです。

c 提出していただいた答案は、設問が要求する、「中国をとりまく東アジアの国際関係の変化」の説明の仕方の違いが、議論されていません。

d 設問の要求と関係ない記述なので、削除してください。

e 問1を踏まえていない議論です。

※問1で資料2が新たに導入した視点を複数示すことができていれば、どの新しい視点を導入したがを確認することで、実際に適用した新しい視点を説明できるはずです。
(1)西洋と関係ない事象もしくは希薄な関係しか持たない事象も検討すべき
(2)西洋に関係した事象でも、中国内部の諸力に対する反応の視点から精査すべき
(3)(中国内部の)社会的・政治的・経済的次元の検討をすべき
(4)中国の文化変動と社会変動の中に19世紀の中国と西洋の出会いを位置づけるべき

「中国社会の変化」について資料を比較するとして、
(1)について、例えば、資料4は中国弱体化の原因として、次のことに触れている点に注目できます。
・人口増と耕地不足による人々の移動、乱開発や森林伐採

(2)について、資料4が「洋務運動」についてどこまで受け入れたか、詳しく説明していることを例として挙げることができます。
・軍事や技術は西洋式になったが、精神面では儒教的伝統が重視された(中体西用)

(3)について、例えば、社会の秩序維持に地方の有力者が積極的に関与したことが資料4で説明されていることに言及できます。
・地方では郷紳などの有力者が自衛組織(団練)を組織し、中央と協力しつつ秩序を保とうとした。
・(略)各地で反乱がおこった。これら一連の反乱を鎮圧したのは清の正規軍ではなく、自衛のために地方の有力者を中心に武装化し、清にも承認された団練や、漢人官僚が組織した地縁にもとづく郷勇という軍隊であった。

(4)について、例えば、太平天国の乱の鎮圧に注目すると、資料3が西洋列強が関与したことに言及する一方で、資料4は、西洋列強の関与に触れていません。これは(3)とも関係しますが、太平天国の乱の鎮圧について、資料4は「団練」の活躍を重視しています。

 もちろん、資料の別の箇所に注目すれば、また別の指摘ができるでしょうが、上記(1)~(4)に示したように新しい視点、枠組みが具体的にどのようなものか、問1で明確にしておくことで、資料3・4の分析がしやすくなるのです。

※※コメント※に示した4つの視点を参考に、「中国をとりまく東アジアの国際関係の変化」について、資料4で新たに導入された項目を説明してみてはいかがでしょうか。
 これはあくまで例ですが、「冊封関係の再建」に注目するなら、「洋務による富国強兵=中国内部の変化」が、「中国をとりまく東アジアの国際関係の変化」に影響を与えたことが説明できます。これは、コメント※の(3)に示した、「(中国内部の)社会的・政治的・経済的次元の検討をすべき」を実践した説明だと言えます。


問3
 形式的には設問の要求に対応した答案を作成しています。ただし、論証が甘いので、WIEの基準ではあと一歩合格圏には至っていません。



a 解答者は「数学」に注目しました。

b 改良すべき点を挙げました。しかし、この改良により、もっと楽しく数学が学べる見込みや、数学に親しみを持てる見込みがあることが、実証的に論証されていないので、説得力が不足しています。
 答案の説得力を高めるには、算数・数学の公式の背後にある、数学者の苦悩や熱意の歴史を解答が具体的に説明するか、あるいは、算数・数学の公式の背後にある論理的な説明としてどのようなものがあるか説明するべきです。
 これは、添削者の個人的な感想ですが、ほとんどの算数・数学の公式について、背後にある論理的な説明(=証明)の内容を理解するのは困難に思えます。公式の証明を理解するには、多くの場合相当の数学的素養が必要です。私は高校時代数学が最も得意な科目でしたが、それでも多くの公式について、公式の証明を理解できませんでした。
 ただし、公式によっては、多くの人が論理的な説明を理解できる場合もあるでしょう。例えば、有名なピタゴラスの定理(三平方の定理)については、公式の証明を理解できる方も多いのではないかと思います。こうした例を利用すれば、解答者の主張の説得力が高まります。
 また、これも添削者の個人的な感想ですが、私自身は、これまでに数学者の苦悩や熱意の歴史を学んだ結果、「人間性を蝕む数学の怖さ」を知ることになったので、現在は、数学に以前よりも親しみを持てなくなっています。
 ただし、これは、添削者の個人的な感想に過ぎません。もっと楽しく数学が学べる見込みや、数学に親しみを持てる見込みに役立つ、数学者の苦悩や熱意の歴史を示せれば、それを答案の中で説明してください。このことで、解答者の主張の説得力が高まります。
 今回提出していただいた答案は、数学者の苦悩や熱意の歴史、あるいは、論理的な仕組みを知ることができれば、もっと楽しく数学が学べたり、数学に親しみを持てたりするであろうという予測を示しているだけです。事例を挙げて実証的な議論をしていないので、今一歩説得力に欠ける答案になってしまっているのです。

※事例を挙げて実証的な議論をすることが難しいようであれば、再提出時には、数学以外の別の教科に変えて議論を構築しても構いません。


 以上を踏まえて、答案を修正して提出してください。
 再提出の答案を心よりお待ちしています。


慶応SFC小論文対策室に戻る